劇場公開日 2008年2月2日

「わかりやすい抗日暗殺モノ。」ラスト、コーション kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0わかりやすい抗日暗殺モノ。

2021年8月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 レジスタンスが敵と目される人物を暗殺するといった内容の映画は数多くあるけど、中国映画となるとなかなかお目にかかれない。最近見た映画では『パープル・バタフライ』なんてのがあった。しかし、今作では暗殺のターゲットは同じ中国人イー(トニー・レオン)。戦時下でもあり、日本政府の犬と噂されるほどの人物だが、特務機関の仕事は抗日運動する中国人を捕え葬ることにあった・・・

 “抗日”といっても、戦時下ではどこでも湧きおこる“反戦”と同義だと思う。列強の帝国主義による中国分割の時代からずっと虐げられる生活が続いていたと想像できるだけに、常に被占領の意識があったことでしょう。それでも直接侵略軍とゲリラ戦を行うのではなく、自国内の裏切り者を暗殺するという、どちらかというと愛国右翼的な行動のような雰囲気でした。

 とにかく標的はイー一人。香港の大学で知り合った6人の劇団員は稚拙ながらもチアチー(タン・ウェイ)を上流夫人に仕立て上げて、慎重で隙がない彼に近づいてゆく。やがて愛人になれそうな雰囲気になったとき、性体験がないと不自然なため仲間うちで無理矢理セックスしてしまう。信条のためとはいえ、ここまで機械的に女スパイに徹する若者たちに悲しくなってしまう。ただ、計画前の劇団公演における「中国を滅ぼすな」コールで気分高揚してしまったので、こんな悲しさもすんなり受け入れられた・・・

 R18指定だけあって激しいセックス描写。男の愛欲も真剣であるはずなのに、殺せるほどの隙がない。チアチーがフックにかかっている拳銃を見つける。イーはその彼女の表情をチラリと見る。するとチアチーは枕でイーの目を隠す・・・このときすでに殺害を諦めていたのか、愛し始めていたのか・・・などと、ベッドシーンにおける心理のやりとりも見どころのひとつ。

 アン・リー監督は何度も登場する麻雀シーンにこだわったと答えていたけど、切り返しという点ではさほどのアイデアもなかったような。日本では11PMでの実況中継や、『麻雀放浪記』といった撮り方に工夫した映像があるためかもしれない。そういえば、タン・ウェイの腋毛も印象的ですが、『麻雀放浪記』の加賀まり子もフサフサだったような記憶がある・・・けど、確信はもてない。

 わかりやすく完成度も高い作品だった。しかし、イーとチアチーが宝石店で顔を見合わせたシーンはなぜか唐突感が残ってしまいました。それまでに仲間の姿を確認していたけど、どこで決断したのか・・・表情だけでは読み取れなかった。

【2008年2月映画館にて】

kossy