劇場公開日 2008年5月17日

  • 予告編を見る

「映画的にはもっとオバカな演出でも、良かったのではと思います。~後半は真面目モードで突っ走る」チャーリー・ウィルソンズ・ウォー 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0映画的にはもっとオバカな演出でも、良かったのではと思います。~後半は真面目モードで突っ走る

2008年5月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 昨日『ランボー』が公開されましたが、圧政をやっつけるのは何もランボーのようなタフな戦士でなくとも、ヒーローになりうるもんだというのが本作品でのお話。

 1980年代、米ソ冷戦時代に、アフガニスタンでソ連を退却に追い込んだひとりの男がいたのです。その名はチャーリー・ウィルソン。大統領でもなく、タフな戦士でもなく、関心があるのはもっぱらお酒と美女。たまにイケナイ薬も少々というお気楽な下院議員であったのです。彼のオフィスの秘書ときたら全員美女揃いで、“チャーリーズ・エンジェル”と呼ばれている始末。
 そんな彼がテレビのニュースでソ連軍の侵攻により、アフガニスタンの窮状を知り、とりあえずCIAのアフガニスタン秘密工作資金を倍増されたことから、だんだんこの問題に関わり合うようになり、ついには秘密作戦への大幅な予算獲得を実現し、作戦を見事成功させてしまう物語です。これ実は、実話でして、原作本はベストセラーらなっています。
 チャーリーが変身していくきっかけとしては、有力支援者でもあり、美人セレブで、熱心な反共産主義者ジョアン・ヘリングの存在もあったからとも言えます。何せ金と女の両方にからしき弱かったですからね。彼女はチャーリーにアフガニスタンの現状を突きつけ、彼を立ち上がらせる推進力となりました。

 それからの展開は急で、いきなりパキスタン大統領と会談し、大統領から難民キャンプの視察を勧められます。
 難民キャンプで、チャーリーは、両腕がなくなった子供たちと遭遇します。ソ連軍は、罪のない子供たちまで、殺戮の対象としていて、オモチャによく似た地雷まで仕掛け置いていたのでした。ここてでランボーならずとも、チャーリーの正義感が点火します。

 CIAの地元担当エージェントであるガストと組んで、予算獲得に奔走。
 ガストは切れ者でしたがギリシャ系ゆえに昇進できず、才能を持て余していました。チャーリーの熱意に心を打たれ、彼にソ連を撃退するための具体的な方法を指南していきます。その結果、地元のムジャーヒディーン(のちのタリバン)たちに世界最高性能の米国製携行型地対空ミサイル「スティンガー」を供与したのです。
 住民を無差別殺戮していたソ連の軍事ヘリが地元ゲリラたちに次々打ち落とされていくトーンは、喝采ものであったけど、その残った武器が世界中にテロをまき散らす原因となったことは誠に皮肉です。もちろんアメリカ人はみんなそんなことは先刻ご承知で、やがて9.11の痛みにつながって行くことになるわけだけど、チャーリーのクレバーなところはちゃんとそれを予見していたのでした。
 彼は、ソ連撤退後のアフガンに学校を作るべきだ。紛争遺児を放置していたら大変なことになっていくぞと警告するのです。しかし時の政府は冷戦の中で、対東欧政策ばかりに気を囚われて、チャーリーの提案などに聞く耳を持ちませんでした。
 それを受けてラストでチャーリーはささやきます。「やり方がまずかったんだよね」と。
 アフガン支援については、アメリカのご都合主義に国際的非難が集まっていますが、ソ連のアフガンにおける無差別殺戮から罪無き国民を救った事実としては、チャーリーを立てた作戦を責められるべきでは無いことが、この作品でよく解ります。
 当初の政策では、アフガンを捨て駒に、戦争の長期化で東側経済の疲弊化を狙っていたアメリカは、アフガン国民がどんなひどい仕打ちをされていても知らぬ存ぜぬを決め込んでいたのですから、どうしようもありません。
 ですから作戦自体はどんなにその後の展開に影響を及ぼしてもあの時点では、誰も彼を責められないでしょう。大事なことは、そんなチャーリーでもちゃんとやり方がまずかったと自己反省していることです。
 9.11テロ事件を境に、なにやらアメリカ全体が、プラス思考から軸足を反省モードに移している風潮に沿った台詞ではないかと思いました。

 長々とお話ししましたが、チャリーというオバカ議員の織りなすオバカ映画化と思いきや、その本質は今のアメリカの政治マインドを反映した、政治映画なんですね。

 平和を愛し、悲劇を見過ごせない正義漢でもあるチャーリーを、トム・ハンクスが熱演。“アメリカの良心”を演じさせれば右に出る者がいない彼には、まさにハマリ役!と言えるでしょう。 嘘のような実話というけれど、チャーリーが以外と真面目でクレバーな議員だったのが、逆に残念。後半は、正義漢に燃えるチャーリーになっちゃって、キャラ的にはつまらなくなります。実在のご本人の名誉はさておき、映画的にはもっとオバカな演出でも、良かったのではと思います。

 映画化にあたって製作陣は、その時代やロケーションなどのディテールに相当こだわったそうです。モロッコで行われたパキスタンとアフガニスタンのシーンの撮影には、パキスタンのCIA責任者だった実在の人物が同行。ライフルの構え方や現地民たちが身につけるクルタ(アフガンのブラウス)など細部まで再現できるように目を配ったそうです。物語はウソみたいなドラマだけど、考証を重ねて追求したディテールはとてもリアル!なんですね。

流山の小地蔵