劇場公開日 2011年3月19日

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「Wes Anderson」ファンタスティック Mr. Fox vary1484さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0Wes Anderson

2019年3月8日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

ストップモーションアニメーションの芸術的革新。
犬ヶ島で話題となったウェス・アンダーソン監督のストップモーションアニメーションの出世作。ストップモーションアニメーションの良さは、クラフト感。最近はもっぱら3Dアニメーションの世界へと、アニメーション映画業界は移り変わりつつあるが、コンピューターの仮想現実上では、どうしても作りきれない、アナログ的要素がストップモーションアニメーションにはあります。実際に粘土やフェルトで作られた人形などには人間の手で作られたという質感が残っています。実際に照明を焚いて、実際のカメラで撮影された映像には、自然な光や影が映ります。このアナログ感が子供の頃に見た人形劇や、子供の頃に遊んだ人形を思い起こさせるので、その当時夢見たファンタジーの世界が目の前に広がる光景は全く邪念なく見ることができます。

さらに、ウェスアンダーソンの芸術感覚やフレーミングなどに見られる特徴が、この作品を唯一無二のものにしています。絵本を1ページ、1ページめくるように、1つ1つのフレーミングが印象に残り、左右対称なコンポジションが現実世界で思い浮かぶ、空想世界の浮遊感を誘起します。さらに特徴的なカメラムーブメント。ストップモーションの概念を覆すような動きに、「これどうやって撮影してるんだろう。」と驚かされました。ストップモーションなのに、楽をせず、ちゃんとバックグラウンドのキャラクターも毎コマ動かしたり、多くの種類のレンズを使った、バラエティ豊かなショットに全く飽きを感じませんでした。
そして、サウンドデザイン。全く0のところから作るサウンドデザインにもまた、アナログ感があるのがいい。あえて音数を少なくして、ストップモーションの実写のイメージを失わないようにしています。

こういう映画を子供に見せたい。大人が真剣に人形を1mm単位で動かしてアニメーションを作っている作品を。映画として、ストーリーがある映像ということは変わりませんが、どうやって撮影するのかによって変わる画面上の見え方が映画の一番の魅力。何十回と作られているシェイクスピアの原作の映画であっても、脚本家、監督によってキャラクターやスタイル、テイストが変わってくる。そういう意味で、この作品は価値がある。楽だとか、経済的に優しいだとか、その辺のことを無視して、作りたいものを、どんな方法を使ってでも作るという姿勢がこんだけトップの監督に宿っていると考えるだけで嬉しい。

スピルバーグの発言が物議を醸しているが、私も映画は映画館で見られてこそ映画だと思う。DVDやVODを否定するつもりは全くないが、それらを観ることによって、映画館に足を運ぶきっかけになってほしい、映画という伝統を守るオスカーは、時代遅れでもそのことを貫き通してほしいという気持ちはある。

vary1484