劇場公開日 1972年12月16日

「使い古されたサスペンスの文法からは解き放たれた巨匠最期の作品」リスボン特急 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5使い古されたサスペンスの文法からは解き放たれた巨匠最期の作品

2019年11月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

フランスの巨匠ジャン=ピエール・メルヴィルが遺した最後の作品。これをきっかけにアラン・ドロンと袂を分かったとも言われるが、確かにそう言われると、サスペンス映画としてはちょっと一筋縄ではいかない作風が貫かれている。まずもってその時制が警察側と犯行グループ側とでやや異なるスピード感にて紡がれ、予測していたスムーズなリズム感とはいかないところが厄介であり、逆にそこがイイという声も根強い(私もそこが面白かった)。

海辺の銀行のビーチ・パラソルのような外観に始まり、車から列車への舞台転換に至るまで、絵作りはいつもながらに完璧。タレコミ屋をめぐる人間模様など、決して線形には進まぬ奇妙な語り口がここにはある。終盤に登場するヘリからリスボン急行の背中へと降りたつ描写は、後の「ミッション:インポッシブル」のクライマックスを思わせるところもあり、実際のところ、少なからぬ影響を与えているのではないだろうか。

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牛津厚信