劇場公開日 2021年5月14日

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「とにかく走る! 泳ぐ! 殴り合う! ベルモンドの魅力炸裂の超お気楽極楽アクションムービー」リオの男 じゃいさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0とにかく走る! 泳ぐ! 殴り合う! ベルモンドの魅力炸裂の超お気楽極楽アクションムービー

2021年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

なんか観終わったあと、妙な全能感に満ち溢れて、ついついバカなことやっちゃいそうな(笑)。
自転車でヤンキー烈風隊追っかけたりとか。あと、無賃乗車とか。

なんでもうまくいきそうな、なんでもやれちゃいそうな、
そんなウルトラハッピーな気分にさせてくれる、
底抜けに陽気でまぬけな一大娯楽作!!
しょうじき、ジャン・ポール・ベルモンドがこんなに魅力的な俳優だとは認識していませんでした。
本当にごめんなさい。

『ボルサリーノ』のアラン・ドロンとの殴り合いとか見てると、むしろ鈍重で木偶の坊ぽい印象だったし、ヤクザの親分になっても白痴顔でまるで風格ないなあ、とか思ってたけど、頭の弱いすっとぼけた新兵さんやらせたら、こんなにドンピシャではまるのね。それに、実はサニー千葉並みにものすごく動ける役者なんだな!

徹頭徹尾、走り、泳ぎ、よじ登る。
本作でベルモンドは、ひたすら動き続ける。
向こう見ずに、動き続けた結果として、常に運は開け、なんとなく物事はうまくいく。

思い出してほしい。この映画でベルモンドは「一銭も使っていない」。
一銭も使わずに(バイクをかっぱらって)空港に行き、
一銭も使わずに(車いすの老人の旅券で)リオまで飛び、
一銭も使わずに(靴磨きの少年の善意で)食ったり飲んだり寝たりしている。
飛行機もかっぱらってるし、フランス人から服もただでもらってるし、乱闘のある飲み屋でも払ってる気配がないし、教授と邂逅してからはタキシード代やパーティの参加費はどうやら出してもらっているようだ。
これが「意図的な」演出であるのは、わざわざ靴磨きの少年に一文無しだと告げたあと、オッサンからせしめたお金を全額少年に渡す描写を入れていることから見て間違いない。
彼は、映画のあいだじゅう、主人公特権を行使して、自分でお金を払うつもりがまるでない!
だから、人にお金を渡してしまえるのだ。(もちろんラストの財宝にも1ミクロンも興味がない)
完全寄生生活で、リオ7日間の旅。元祖電波少年。
なんて、うらやましいんだ!

ベルモンドは、まずは手近な交通手段をかっぱらって、敵を追いかける。
で、それが使えなくなったら、適当に乗り換える。
それでも壊れたら、最後は、走る。もしくは、泳ぐ。
このロジックは、映画のあいだじゅう終始一貫している。
ふつうに考えて、車が発進してから、走って追いかけてもあっという間に振り切られておしまいだ。
でも、ベルモンドは、ただ走り続ける。リオの街を、どこまでも。
走って、走って、走り続けるうちに、……いつも、なぜか敵のほうから探しに来る!!
これは、本当に斬新なアクション・システムだぜ……。

とにかく、がむしゃらにやってれば、運は開けるってことだね。

しょうじき、出だしはまあまあノリの古臭い、「昔の映画だ」というエクスキューズ込みで愉しむ映画だと思って、だらっと観ていた。
石井照男とか鷹森立一とかが撮ってた昔の東映アクションみたいな。
でも、飛行機がリオに着いてからは、なんだか空気が変わった。
海岸に建つ少年の家が、夕景に浮かぶシルエットの美しさに、りつ然とした。
そこからは、もう夢中だった。

どのシーンのベルモンドも好きだし、どのシーンのアクションも味わい深いが、
ひとつあげるなら、酒場での乱闘シーンはとにかく最高だ。
正調西部劇やマカロニウエスタンでも良く見るたぐいの殴り合いだが、
ふだん観るそれの「濃縮5倍」くらいの乱痴気ぶりで、脳の中枢にくらくらくる。
ここでは、「上半身裸の現地人は圧倒的にボディが強い」という逆差別的な超人性が強調されているが、まさにこれはスピルバーグが「インディ・ジョーンズ」で継承して見せた要素のひとつだ。

フランソワーズ・ドルレアックの美しさとぶっとんだ能天気さも、映画のおバカに花を添える。
僕はこの人をポランスキーの『袋小路』で記憶していたので、ギャップに結構驚いた。
『ロシュフォールの恋人たち』を観たときに、カトリーヌ・ドヌーヴの実姉とか、デ・ハビランドとフォンテーンみたいでめんどくさそう、とか思ったのを覚えているが、パンフを見たらこの人、その翌年には車のスリップ事故でなくなってるんだなあ、マジで可哀想に。

やっぱり、適当になんでも乗れちゃうベルモンドのようには、
世の中うまくいかないってことですね。

じゃい