「何故そこを出ていきたいのか、描き切れていない」望郷(1937) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0何故そこを出ていきたいのか、描き切れていない

2013年3月9日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

難しい

総合:60点
ストーリー: 60
キャスト: 60
演出: 55
ビジュアル: 55
音楽: 65

 もし自分が犯罪を犯して警察に追われ、フィリピンだかマレーシアだとかにあるどこかの周囲数キロしかない小さな町に逃げ込んで、そこから外に出ることができないとしたら? たとえそうなったとしても、なんとか自由に外に出たいと思うことは明白だ。
 主人公のしでかしたことが故とはいえ、異郷の地の異教徒の小さな町の中でしか生きられないことは、主人公にはまるで牢獄のごとく感じられるのだろう。たとえそこでの信頼や地位や自分を慕う人々を捨ててでも、またわが身を滅ぼしてでも自分の国に帰りたいという望郷の想い捨てさり難い。またそんな男を愛した女は、彼と一緒に行きたいと願っても拒否され、彼を引き留める術を知らずに非合理的な動きをしてしまう。人間は感情の生き物、合理的な判断だけで生きているのではない。それが人が生きるということなのかな。

 でも古い映画だし、もっとそのような気持ちを表す演出が描き切れているかと言われれば、そうでもない。彼のフランスの生活がどうだったかもわからないから、彼がどれだけ母国に思いをはせているのか、今の生活とも比較しようがない。映画を見る人にとってはこの町から映画が始まるわけで、この町で顔役になっている彼の生活が彼の全てのようにも見えるし、それを捨て去っていくのは身勝手に見える。もっと生活習慣の違いとか言葉とか、そのような異郷の地にいる感じがより出ていれば、彼の孤独や不自由さや望郷の念といった感情をさらに理解出来たのだと思う。室内の場面が多くてせっかくの独特の街並みが効果的に撮影されている場面も少ないし、古い白黒映像はこの街並みを描写しきれていない。名作といわれるこの映画を高く評価しない人の評価がいくつかあるのも、異郷の地に住みながら望郷の念を強く抱くことが解り辛いことが原因なのかもしれないし、少なくとも私はそうだ。

コメントする
Cape God