劇場公開日 2020年7月31日

  • 予告編を見る

「超猥雑で、軽妙洒脱。」フェリーニのアマルコルド とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5超猥雑で、軽妙洒脱。

2020年5月31日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

笑える

綿毛が春の到来を告げ、冬の終わりを告げる祭りが始まる。
そして、再び綿毛が舞うまでの1年間。
 ある一家、特に長男チッタを中心に話が展開するが、様々な人のエピソードが雑多に点描される。ゆる~い起承転結はあるが、街の日常を描いた作品。
 ただそれだけ。
 街の歴史等の解説は入るが、登場人物の解説はない。
 他の映画なら15分で飽きるのに、この映画は飽きない、最後まで見せ切る。ロータ氏のメロディに乗せられて、なぜか目が離せなくなる。

異国、かつちょっと前の時代の、ファシズムの影はちらつくが、ごく普通の生活の風物詩。

随所に出てくるおならネタ。お尻ネタ。それから、それから。『週刊ジャンプ』等で炸裂する、男児が好みそうな小ネタの数々…。子どもと見ていたら焦るかも…。
 15歳の長男とその学友達の思春期エロ目線・妄想、憧れ、経験、いたずら。初恋。
 風刺化された教師達の授業が笑える。
 ファシズム。それにまつわるエピソード。
 豪華客船。
 嘘っぽい不思議なエピソード。
 季節ごとのエピソード。
 葬式。
 結婚式。
 この映画では、精神障碍者・視覚障碍者・低身長な方々も、扱いは雑だが、そこに暮らす人として出てくる。排斥しない。おじさんのエピソードは強烈だが、家族の一員。突き放しているようでどこか温かく、可笑しい。

幾人もの主要人物?とみえる人物が登場し、その彼らがお互い関係している関係もあるけれど、単に並列的に登場し、映画全体の筋を追うと混乱する。
そんなエピソードの羅列で、つなぎが唐突に見える個所もあるけれど、
喧噪だらけだったキッチン兼ダイニングの火が消えた様は胸にグッとくる。
エピソードも、人々の心の動きを活写しているところ、
ダンスや演劇のように凝った演出のシーンと、一つ一つテイスト、アングルが違う。
特に、まったく雰囲気が異なる霧のシーンは、影絵のようでもあり、幻想的な世界に連れていかれる。
そのあとに続く、少年たちのダンス、チッタの妄想のような体験、病気、幻想的な孔雀、病院、葬式。そして春の到来、ラストのシーンの展開に惹きつけられる。

15歳長男チッタが青年に見えて、ちょっと無理があったような。でも、演技は15歳っぽい。そのギャップが惜しい。
 他の役者はみな、見事。特にチッタの両親の喜怒哀楽。
 そしてヴォルピーナが、福祉が整っていなかった頃はああいう方も街でああやって暮らしていそうで唸ってしまった。あれ、演技だよね。

解説によると、『アマルコルド』は「私は覚えている」という意味(監督の故郷の既に使われなくなった言葉がなまったもの)とか。監督の少年時代?夢?の映画?

喜怒哀楽、人生にはいろいろあるが、季節は巡る。
そんなことを思い出させてくれる。

とみいじょん