劇場公開日 1960年2月10日

「60年の時を超えて、21世紀の私達に向けてのメッセージを強く発している」渚にて あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.060年の時を超えて、21世紀の私達に向けてのメッセージを強く発している

2019年2月11日
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1957年刊行の同名原作はSFの終末物の名作として有名
本作は1959年の公開
キューバ危機が起こり世界が明日核戦争に突入するかも知れない
そんな恐怖におののいたのは1962年のこと
つまり本作の描く物語はSFの世界ではなくいつそうなってもおかしくない恐怖を具象化した作品であったのだ

全面核戦争の恐怖は1991年のソ連崩壊による冷戦終結によって去った
それは1988年にはINF条約という核軍縮条約の締結から始まった

それから30年が流れた
本作公開からは60年もの年月が過ぎた
核戦争の恐怖は前世紀のものでもはや過去のものなのだろうか?
本作は過去の題材の作品なのだろうか?

とんでもない
ロシアと中国はINF条約を無視して新技術の迎撃不能な新型の核ミサイルを開発していることが明らかになっているのが、21世紀の現状なのだ
対抗上米国はそのINF条約を破棄するとのニュースに接したばかりだ
そればかりか北朝鮮の核の火遊びはいつ再開されるかも知れないのだ

つまり21世紀の核危機は今始まったのだ
全面核戦争の危機は米ソ冷戦時代のレベルに舞いもどっているのだ

しかし核戦争の結末は何なのか
社会は、私達の生活はどうなってしまうのか
核で一瞬のうちに灰にならなくともどのような終末が待っているのか
本作の示すところを世界はもう忘れ去ってしまっているのではないか
今こそ本作を見なおさなければならない時にきているのだ

西側世界に育った私達はこのような核戦争の末路を描いた作品を観たり聞いたりして大人になってきた

しかし、ロシアや中国の人々はどうだろう
本作のような核戦争の恐怖を描いた作品を観て育って来ているのだろうか?
同じ認識に立っているのだろうか?
もし観てもいないし本作の存在すら知らないで大人に成っている人々ならば、この21世紀の核戦争の恐怖を互いに共有することができるのであろうか?

本作の終盤には教会の前の横断幕に大書きされた「まだ間に合う」の文言が写される
神にこの核戦争の誤りを悔い改めるにはまだ間に合うとのものだが、ラストシーンに再度写される
それは本作を観る私達に 向けてのものだ
核戦争を食い止める努力はまだ間に合うのだ
米ソ冷戦時代の当時の観客だけに向けてのものではない
60年の時を超えて、21世紀の私達に向けてのメッセージを強く発しているのだ

名優グレゴリー・ペックの名演はじめ、平穏を保つメルボルンが実は水面下で壊れそうのなるのを耐えているのだということを映像と演出で巧みに淡々と描ききったところは映画としても大変に優れている
素晴らしい名作だ

あき240