劇場公開日 1990年5月12日

「真の人間同士の心のふれあいが差別をその根源から消し去るのです」ドライビング・MISS・デイジー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0真の人間同士の心のふれあいが差別をその根源から消し去るのです

2019年11月25日
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鑑賞方法:DVD/BD

素晴らしい映画に出会えた幸福を感じました
とにかくジェシカ・タンディとモーガン・フリーマンの掛け合いが素晴らしく吹き出しそうなくらいに面白く、そしてやがてホロリとさせられます
この二人の名優の演技は物凄いものがあります
またデイジーの息子役のダン・エイクロイドもいい味をだして名優の域です

人種差別の物語であり、共に皆年老いていく物語でもあります

熱い感動と心が洗われる思いの両方が、快く沸き上がりました

ミスというのは未亡人という意味合いです
ご主人は何年も前に亡くなっていて墓参りに行くシーンもあります
劇中の会話から1876年生まれと分かります
その年生まれには意味があります
その12年後が例の5年生の集合写真なのですが逆に12年前なら南北戦争でのアトランタの戦いの年なのです
そうあの「風と共に去りぬ」のクライマックスの戦いの年です
つまり彼女はそのスカーレット・オハラの娘と同じ年代にあたるのです
彼女の死別した夫と義父はどうやら当地で紡績工場を裸一貫から興したというのですから、もしかしたら南北戦争前はあの風と共に去りぬのようなプランテーションの出身者かも知れません

そしてドイツ系のユダヤ人という設定です
これらの事には意味があり物語が進むに従って明らかになっていきます

そして、もともと学校の先生で細々と気難しい性格のようです
また人の心の痛みとかにも、もともとから無関心な性格でズケズケ物言うタイプだったようでもあります
息子からもかなり嫌がられています

舞台は人種差別の強い南部ジョージア州アトランタ
時は1953年から物語が始まります、彼女は77歳
車を買い換えたりメイドのアデラが死んだ年が1963年、彼女は87歳
キング牧師の夕食会があったのは1966年、彼女90歳
認知症を発症し、ラストの老人ホームは恐らく70年代のことのようです
デイジーは殆ど100歳です

つまり1950年代からの20年に渡る時代の移り変わりが実は描かれているのです
ですから、題名のドライビングとは、単なる車の運転の事だけではなく、彼女の人生のドライブを差しているのです
特に人種差別への彼女の変化について

人種的な偏見を持たないといいつつデイジーは無自覚に差別をしつづけます

やがてホークと打ち解けるようになってきても、表面的なだけで差別は消えてはいません

アラバマ州モビールの親戚の家に行く約500キロ程の一日旅で、道中職務質問する警官はホークに差別的な視線を向けます
ホークはたまらず子供頃のKKK のリンチを見た記憶を話ます
何故彼がそのような話をしだしたのかも彼女は理解出来もしないのです
さらにデイジーにもユダヤ人であることからホークと同様に差別的な視線を向けられていたのにも関わらず、彼女はホークを無自覚に人間扱いしない言動をするのです

毎週通うユダヤ寺院を爆破されて、自分も被差別人種だと気付かされてもなお、ホークには無自覚に差別をしています

それでも次第にキング牧師の夕食会行きたいと思うようになるまでには彼女も意識改革してきますが、ホークを誘うことは全く頭にも浮かばないのです
逆に出席を断った息子にホークを誘ってやれと言われて初めてそれを思い至るのですが、会場に到着間際になって突然一緒に夕食会に出席すればとか言い出すのです
ノーベル平和賞を受賞した地元アトランタの英雄が当地の一流ホテルで名士を集めて夕食会を開いて演説するのです
会場には白人も黒人もみな立派に身なりを整えて集まっているのです
ホークは運転手のみすぼらしい服装です
無自覚な残酷さです
さすがのホークも悪態をついてしまいます

そしてクライマックス
認知症を発症してホークにパニックを鎮めないと病院に入れられると諭され落ち着くシーン
デイジーはホークに今も昔の車に乗っているのかと尋ねます
ホークは今乗っているのは65年型のキャデラックだと答えると、彼女は目が悪いのに運転したら駄目と返します
でも、その表情は黒人がそんないい車に乗っているなんて、という顔です
ホークの顔にもそれを感じとった表情が浮かび諦めています

それでも彼女はあなたは友達よとホークの手を握りしめるのです

そのことでホークは無自覚な差別は表面的には染み付いていて消えないものかもしれないが、長年の心の触れ合う信頼関係は人種を超えて、このように表面的ではない、心の奥底で真の友情を作るのだと知るのです

そして施設に入れられたデイジーの屋敷は売りに出され、結局ホークが買うのです
あのハドソンの車のように
彼の孫娘は大学の先生というそんな時代なのです

デイジーの息子ブーリーは地元でも有力な紡績工場の社長
彼はキング牧師の夕食会にでると商売に差し障りがでるからと母の誘いを断った人物ではあるのですが、本当は差別的ではありません
本作の白人の中で最も平等にホークを扱っているのです

世が世ならプランテーションの大旦那様
彼の工場も50年代は黒人工員達が一人一台づつ操作した機械が、60年代ともなると自動織機にかわり工員の姿も見えません
時代は変わったのです

彼は母親の屋敷を黒人のホークに売ることを、却って嬉しくとても喜んでいます
ホークが高齢で運転ができなくなりタクシーを使ってでも母親を時折お見舞いに来てくれることを心から感謝しています
ホークもその心はしっかりと感じています

だからこそラストシーンでホークは、今もブーリーから週給を貰っていると、呆けたデイジーに調子を合わせてやっているのです

あんなに無自覚に差別をしていたデイジーはホークを嬉しそうに迎え、彼との会話は本当に楽しそうです
そしてホークの差し出すパイのスプーンを子供のような笑顔で二度も口に入れるのです

彼もまた共に年老いた長年の本当の友人となっているのです
そこには人種の壁はどこにも無いのです

本作のテーマは此処に集約されています
無自覚な差別にいちいち目くじらをたてることなく、ホークのように少しは苛立つことがあっても、軽くジョークで受け流していき、彼とデイジーの間のような真の人間同士の心のふれあいこそが差別をその根源から消し去るのです

悪しき人々の過激な言葉や暴力ではなく云々とのキング牧師の演説のとおり、それは差別を逆に増幅するのです

スパイク・リー監督にこそ本作を百回観て欲しいと思いました
彼はどうせ白人監督の作品だろと斬って捨てるでしょうが・・・

あき240
しーらんさんのコメント
2023年8月29日

素晴らしいレビューに感動しました。ありがとうございます。

しーらん
2023年6月18日

共感ありがとうございました☆どうぞよろしくお願いします❀

美紅
KEIさんのコメント
2022年3月23日

あき240さん
拙いレビューに共感頂き有難うございます。あき240さんの素晴らしいレビュー見て、この映画のこと思い出しました。

KEI