劇場公開日 2023年9月22日

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「2代目新生ボンドと編集出身の監督が放つキレの良い活劇と程良いスリルの果てにビターな結末で締める007の異色作」女王陛下の007 ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.02代目新生ボンドと編集出身の監督が放つキレの良い活劇と程良いスリルの果てにビターな結末で締める007の異色作

2021年12月30日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

作戦中に浜辺で出逢ったマフィアのボスの娘でもあるテレサと取引で結婚したボンドが、いつしか本当に惹かれて始めてゆき、宿敵ブロフェルドを倒してあとに結婚をするが、新婚旅行で悲劇が起きる。

ハマり役だったショーン・コネリーのボンドから本作のみになった2代目ジェームズ・ボンドのジョージ・レイゼンビーにバトンタッチした6作目で1969年に公開された作品だが、当時の映画批評などでは、凡作に近い評価が多くて興業成績も落ちていた事からしばらくは、黒歴史にされていた作品だが、公開前後に生まれた世代の映画監督などに影響を与えて近年再評価されている印象。

80年代前半くらいまでは、007の新作が公開されるタイミングで、007の映画をメインにしたテレビの特番がゴールデンタイムに放送されて、過去作品のアクションや歴代ボンドガールや秘密兵器の見せ場をダイジェストで観られる事もあり007の映画を全編観てはいないが、見せ場は大体知っている状態だった。

今ならネタバレと大騒ぎになるかもですが、昔の観客はそれに慣れていた。

過去作の名場面集でも何故か本作が取り上げられる場面は少なめだったのが、子供心に疑問だったが、本作のスキーアクション場面の残酷描写が強烈で若干トラウマになったのもありテレビで放映されて見ない状態だった。

様々な映画に興味を持った頃の自分も初見は、レンタルビデオを観たクチだが、想像以上に良い作品で、当時酷評した批評家の見る目の無さに呆れた次第。
その後に更にいくつかの文献などを読んで何となく分かったが、レイゼンビーのボンドの硬さと原作に忠実なストーリーが地味に映り低評価に繋がったのではと思っている。
確かにコネリーと比較するとレイゼンビーは、スタイルや動きは良いが、艶が無くも雰囲気も軽めに見えて正直部が悪いのは分かるが、見るタイミングで正直気にならない。

物語のシナリオもコネリーのボンドに当てはめて過去作品を観ている印象だと、センチメンタルな感じで、多くの女性たちを、ある種の冷徹さで扱ってきたコネリーボンドには違和感がでるかも。

本作が監督デビューになる編集出身のピーター・ハントは、リアル寄りだがキレのあるダイナミックなアクションを随所に配置して、目を見張る場面も多く、特に個人的にトラウマになった残酷描写のあるスキーアクションは、その後の007シリーズにも引き継がれている見せ場である。
ただ、格闘アクション場面での部分的な早回しの多用や雪崩の特撮合成シーンなどは、今の目で見るとイマイチかも。

ルイ・アームストロングが担当した主題歌『愛はすべてを超えては』は名曲だが、暗示的なラブソングで、単体で聴くと007の曲に思えず劇中の前半に流れるだけだが、映画をラストまで観るとこれ以上にないくらいにハマっており、以前流通していた『女王陛下の007』のLDソフト版だとエンドクレジットが終わった後の暗転場面に単体で主題歌「愛はすべてを越えて」が流れてラストの余韻を深めていたのを思い出す。
版権の関係かDVDソフト版に無かったけど・・

主題歌の曲調の関係でゴールデンフィンガーから定番になったオープニングクレジットでの主題歌では無くジョン・バリーが手掛けた『女王陛下の007』のテーマの出来映えも素晴らしくて緩急あるアップテンポな曲調で作品にもマッチしている。

撮影のマイケル・リードは、それまで低予算が殆どのハマー映画を手掛けてきたが、初の大作で抜擢されて数々のロケ撮影を見事こなして、やや乾いた色調で艷やかさには欠けるが、逆に当時のアメリカニューシネマ調な側面を醸し出して作品にはマッチしていると思う。

本作をリスペクトしているクリストファー・ノーランは、『インセプション』で本作の雪上アクションを踏襲しているが、当時ノーラン作品の特徴でアクションの見映えイマイチなので元より単調で劣化したモノになっていたのには驚いたが、逆に本作の仕上がりの良さを立証している。ノーランは『テネット』でアクション音痴を克服したけど。

悲劇ヒロインでもあるテレサ役のダイアナ・リグは、当時イギリスのテレビシリーズの『おしゃれ㊙︎探偵』で人妻だが、イギリス諜報機関の工作員でもある?主人公エマ・ピエール役でイギリスでは人気があったらしい。
日本では殆ど再放送されない番組で、未見だが雑誌に載っていた解説によると、ミニスカ着用の人妻工作員が、敵を空手キックでボコるところが見所らしい(マジ?)ある種の癖のある人には堪らない作品らしい。
ダイアナ・リグの最後の出演作品でもある『ラストナイト・イン・ソーホ』のエドガー・ライト監督も多分再放送などで本作の観ていたはずで、年代的にも内容的にも彼女を起用しているのは意図的だと思う。
ちなみに先代のエマ役のオナー・ブラックマンも『007ゴールドフィンガー』でボンドガールになっていたり、もう一人主人公でエマに命令を出す上司のパトリック・マクニーも『007美しき獲物たち』に楽屋落ち的ネタをロジャー・ムーアと交わしながら出演しているのが面白い。(確かムーアがマクニーに「あんたは人使いが荒い」と言ったと記憶してます)

個人的に007のベストでもありとても好きな作品で、最新作でダニエル・グレイクのボンド引退作でもある『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』で強力にリスペクトされているが嬉しい。

ミラーズ