劇場公開日 1976年6月12日

「マーロウを味のある演技で魅せるロバート・ミッチャムのムード優先のハードボイルド」さらば愛しき女よ Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5マーロウを味のある演技で魅せるロバート・ミッチャムのムード優先のハードボイルド

2022年3月2日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

レイモンド・チャンドラーは、ハードボイルド推理小説の代表的作家と称され長編の殆どが映画化されているという。『Farewell、My Lovely』を原作とする3度目のこのディック・リチャーズ作品は、主演のロバート・ミッチャムの魅力が溢れて、気だるさの中に独特な雰囲気を醸し出して成功していると思う。演技派でもなく、特に個性が際立つ俳優ではないが、スリーピング・アイと呼ばれる特徴を持つこのベテラン俳優のキャリアの裏打ちがあって、このフィリップ・マーロウは存在感があり良かった。ただ、監督のリチャーズの演出にはムード優先の切れ味不足があるのは否めない。人物を含めた被写体を殆ど中間距離で撮影するカメラアングルが多く、映画的な広がりも弱く、当たり障りのないカメラワークと言えるだろう。それが、過去を消し去ろうとする悲劇の悪女ヘレンを好演したシャーロット・ランプリングの魅力を全開にしていないところが、心残りだった。この女の哀れさがもっと表現されていたら、これは傑作になっていたはず。
謎の女を探す探偵マーロウが遭遇する連続殺人事件に絡んで描かれた、男の哀愁と女の非情さが、40年代のロサンゼルスを舞台にした映画の中で漂う魅力ある佳作ではあった。

  1977年 3月13日  池袋文芸坐

Gustav