劇場公開日 1969年4月26日

「追悼・ナタリー・ドロン」個人教授 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5追悼・ナタリー・ドロン

2021年2月10日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

追悼ナタリー・ドロンNathalie Delon、先日1月21日に79歳で他界された彼女の代表作といえる本作を謹んで再見しました。

1970年代に一種のブームとなって多く制作された、思春期の少年が年上の魅惑の女性に憧れ、叶わぬ恋に惑溺し熱中するも悲恋となり、少年は一歩大人に成長していく、という数多の青春ロマンス映画の嚆矢であり、導火線となった作品です。英語タイトル『Tender Moment』が、コンテンツの性格をより的確に伝えています。

当時、一世を風靡したフランシス・レイ作曲のリズミカルで抒情的なメロディーも相俟って、丁度ティーンエージャー真っ只中の私も感化されたのは、多分主役のナタリー・ドロンの、大人の女が持つ妖艶で蠱惑的な魅力のせいだったのでしょう。アラン・ドロンが靡いたのも宜なるかなと思います。
舞台設定は異なりますが、『おもいでの夏』もこの系譜であり、21世紀では『マレーナ』も当て嵌まる、映画にとって永遠のモチーフなのでしょう。
思うに、年下に限らず男を魅了し、時には子ども扱いして翻弄し、時に憂愁を漂わせて惑わせ悩ませる役には、どうもフランスの女優が適役であるように思います。本作のナタリー・ドロン、カトリーヌ・ドヌーヴ、エマニュエル・ベアール、そして言わずもがなのイザベル・アジャーニ。彼女たちには、敵いようがないと思わせる艶冶で妖麗な緋色のベールが纏わりついています。彼女たちに比して『おもいでの夏』のジェニファー・オニールは、初心な少年を戸惑わせる妖しげな色香というよりも、寧ろ健康的な艶っぽさが漂っていたように思います。
時代背景からすると、5月革命直後の騒がしい世情下のフランスが舞台ですが、却って逆説的に、フランスのごく日常的な学生生活を描いていたのも印象的でした。
そして当然ながら全編を通じて少年オリヴィエの視点で撮られており、恋慕と不安が交差しながら揺れ動き苦悩する少年のナイーブな心情が、狂おしいほどに実感できます。
また登場人物が絞り込まれ、二人を中心にしてのみ物語が凝縮されて展開するので、観客は自然に感情移入できる、非常に巧い脚本です。

半世紀以上も前に作られた映画ですが、今思い出しても、何処かほろ苦く遣る瀬無い想いが込み上げてくる、ノスタルジーとメランコリーが入り混じった感のする忘れられない映画です。

keithKH