劇場公開日 1995年7月29日

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「虚と実の境目を失くす、驚くべき映画」クローズ・アップ ローチさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0虚と実の境目を失くす、驚くべき映画

2018年2月28日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

知的

クリント・イーストウッドの『15時17分、パリ行き』のように、実際の事件の当事者を起用して再現した作品なのだが、リアリズムの演出ではイーストウッドよりもさらに洗練された、驚きべき作品。

裁判の場面などはドキュメンタリー映像なのだが、実際にはこれも一部再現であり、事実の記録と再現パートの完全にないまぜにされていて、真実と虚の境が完全になくなっている。物語も、ある青年が有名映画監督になりすますという、嘘を巡るものであり、事実とは何か、虚構とは何かという問いに、物語からも、手法の点からも迫っている。

それにしても素人たちの見事な演技。事件の再現パートもそのままドキュメンタリーのようにも見えるほどの自然な佇まい。加えてキアロスタミ監督は自然音の使い方が絶妙に上手い。音と映像で巧みに観客を騙し、虚と実の入り混じった、キアロスタミ独特の空間に観客を放り込んでしまう。

リアリティの追求のためだけに当事者が起用されているのではない、虚と実の垣根を壊すために当事者が必要だったのだろう。観終えた時には、何が事実か嘘なのか、それが瑣末なことに感じる地平に観客を誘うすごい映画だ。

杉本穂高