劇場公開日 1970年4月18日

「雨中の靄に揺蕩い、浮遊感を楽しむ作品」雨の訪問者 keithKHさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5雨中の靄に揺蕩い、浮遊感を楽しむ作品

2020年7月3日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

チャールズ・ブロンソンという、決して器用ではないものの、スクリーンに現れるだけで野性味溢れる男臭さを放散する俳優がいました。
映画史に残るような名作に主演することはなく、専らその隆々たる肉体を駆使したアクション映画が多かったのですが、年輪を重ねた皺面に口髭を蓄えたその特異な容貌によって独特の異様な存在感があり、特に日本では長年人気を保ち続けました。
日本での彼の人気を決定づけたのは、1970年にオンエアされた男性化粧品マンダムのCFで、ジェリー・ウォレスの歌う、軽快でリズミカルなBGM「男の世界」も相俟って爆発的なブームとなり、商品も空前のヒットを遂げました。
その同じ年の春に公開されたのが本作です。
僅か数秒間のマンダムCFの衝撃的登場に加え、本作で彼が演じた、渋味と苦味、侠気に少しの妖気を纏ったハリー・ドブス役こそ、彼の野性的な魅力を増幅させ、一気に日本での人気スターの座を射止めたといえるでしょう。

フランスの名匠ルネ・クレマン監督が、晩年に取組んだミステリードラマの傑作です。
南仏の海辺の小ぢんまりとした町を舞台に、タイトル通り事件は小糠雨がそぼ降る日に起こります。驟雨、霧雨、叢雨、白雨、作中の殆どのシーンが雨中で展開していくため、全編を通じて憂鬱な空気が蔓延します。
本作はマルレーヌ・ジョベール扮する若い新妻メリーが主人公であり、常に肌の露出度の大きい白い衣装を纏い、まるで少女のような仕草や表情は可憐で純情で、いかにも危うい一方で、物語の進行につれて気丈で強かな一面も兼ね備えていきます。
彼女が起こした事件とその揉消し、そのプロセスで起こる謎の事件が、全てメリーの視点による仰角気味のカットで映像が作られるので、観客は自然と不安と猜疑に苛められながら、徐々に彼女に感情移入していきます。
ハリー・ドブスは、彼女に付き纏いその謎を追及する謎の人物であり、スパイラルに謎が深まり、観客は終始亜麻色の靄に包まれたような茫漠感と当惑感覚に麻痺させられていきます。
南仏、豪奢な館、消えた大金、雨、謎の男、そして二つの殺人事件、フランシス・レイが奏でる流麗で寂寥感漂うBGMが、物語を一層ミステリアスで妖しくさせ、どこかアンニュイな情感を鏤めさせながら、映画はエンディングを迎えます。
ルネ・クレマン監督が創り出した靄の中をただ揺蕩い、独特の浮遊感を味わうのが本作の醍醐味といえるでしょう。

keithKH