劇場公開日 1975年11月1日

「「愛の嵐」という邦題は、「夏の嵐」を思い出した日本の配給会社の宣伝マンの類い希な才能が付けたものだと思います 見事です」愛の嵐 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「愛の嵐」という邦題は、「夏の嵐」を思い出した日本の配給会社の宣伝マンの類い希な才能が付けたものだと思います 見事です

2022年8月4日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:VOD

心を鷲掴みにされました
男と女の究極の愛
だが、これが果たして愛といえるものかどうか分かりません

本作といえばあのポスターのビジュアルのインパクトでしょう

ナチ親衛隊の制帽を被り、上半身は裸
軍服のぶかぶかのズボンをズボン吊りで履く
その下の下着も履いていないのは明らか
薄い乳房がそのズボン吊りのバンドのしたにある
髪は短く刈られ男の子のよう
極度の栄養失調であばらの浮く、細い少女の体型
革の長い手袋
その姿で酔ったナチ親衛隊将校達の中で踊る
なんと背徳的で退廃的な映像でしょうか

サロメのエピソードはその直後にあります

ほとんどの宗教絵画はサロメが所望した聖ヨハネの首が皿に乗って描かれています
本作ではダンボール箱でした
それを観た時のルチアの表情!
恍惚の笑みなのです
自分の望みをここまでして叶えてくれた愛の証
ユダヤ人絶滅収容所の囚人とナチ親衛隊の究極の倒錯した愛

愛なのか?、そうでないのか?
戦後12年経って、過去を偽って日陰で生きる男、解放され優しく裕福で紳士的な夫を得て幸せに生きる女
会ってはならないし、互いに会いたくも無かった
なのに強烈な磁力のように引き合い、愛に狂ってしまう
暴力的に扱われて人の尊厳を剥ぎ取らたときにむしろ喜びを感じてしまう
愛ではないはず
なのにルチアには自己を解放されてのびのびとしている

ラストの道行きは心中の旅路でした
これは愛の成就なのでしょうか?

二人に取ってはそうだったのです
抗えない愛であったのです

正に「愛の嵐」です
理性もなにもかも全てを吹き飛ばしてしまう愛の暴風雨です
身体の中の熱くうずく芯が求める欲望がそう肉体を突き動かしてしまうのです

その意味で1955年のヴィスコンティ監督の「夏の嵐」と同じです
その映画の原題は「官能」邦題は本作と同じく理性を官能が吹き飛ばしてしまった熱い嵐を表現したものでしょう

本作の「愛の嵐」という邦題は、その「夏の嵐」を思い出した日本の配給会社の宣伝マンの類い希な才能が付けたものだと思います
見事です

原題は「ナイト・ポーター」
ウィーンのホテルの夜間受付人の意味です
なんの味わいもないこれよりも邦題の巧みさと味わいが際立っています

あき240