劇場公開日 1978年4月29日

「女性の人生の選択を真摯に見詰めた美しいバレエ映画」愛と喝采の日々 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5女性の人生の選択を真摯に見詰めた美しいバレエ映画

2022年6月25日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

奇麗に纏った作品で、見所もバレエシーンとシャーリー・マクレーン、アン・バンクロフトの二大女優共演の魅力十分の女性映画である。原題の『The Turning Point』とは分岐点の意味だが、ここでは中年を迎えた二人の過去の選択を振り返ることから、もう一度人生を見なおし、前向きに生きて行く未来を見据えている。マクレーンはプリマ・バレリーナの華やかな職を辞めて結婚し、三人の子供に恵まれ幸せな家庭生活を送ってきたが、バレエを途中で諦めたことには今でも後悔の念がある。片やバンクロフトはバレエ人生を続け名声を得たが、肉体的には若い頃のダンスは出来なくなっている。仕事が結婚かの選択に迫られる女性の対照的な生き方の、そのどちらにも満足の行く答えはない。仕事人間で家庭を蔑ろにしても世間体では評価される男性には理解できない、女性だけの苦悩である。その二人の友情がお互いの嫉妬と羨望により、ぶつかるところがある。マクレーンの娘レスリー・ブラウンがバレエ公演で成功を収め喝采を浴びたあと、ホテルの屋上でマクレーンとバンクロフトが取っ組み合いの喧嘩をする。このシーンに女性たちが抱えた悩みや痛みが集約されていた。そして、若い世代へのメッセージとして、後悔のない人生などない、けれど納得できる人生を送るために悩み苦しむことは、人生の敵ではないことを教えてくれている。

ハーバート・ロス監督はバレエ出身の異色の監督であり、その演出は丁寧で正攻法である。ただし、人物のカットになると、アングルの単調さと均一的な配分が時に平坦な印象を与える。二人の衝突シーン以外にもドラマティックな演出を見せても良かったのではないかと思った。ロバート・サーティズの撮影は全体的に奇麗で、特にバレエシーンは素晴らしい。シャーリー・マクレーンは久し振りのカムバックで適役のいい演技を見せてくれ、バンクロフトは最適の役ではないが演技力でカバーしている。新人ブラウンは細い体で綺麗なダンスを披露するが、演技力に物足りなさを残す。ロシア人ダンサー、ミハイル・バリシニコフは身長は高くないが跳躍力が素晴らしく、流石にバレエは見事に尽きる。バレエを通して、女性の生き方を真摯に描いた正直な映画だった。

  1978年  10月25日  飯田橋佳作座

Gustav