劇場公開日 1949年3月22日

「蛍の光、別れのワルツは本作がルーツだそうです」哀愁 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0蛍の光、別れのワルツは本作がルーツだそうです

2019年8月1日
Androidアプリから投稿

正に名画です
哀愁という邦題は見事というほかにありません
それ以外にどうこの震える感情を表せるというのでしょうか

ウォータールー橋は第二次大戦中は鉄骨のトラスが連なる橋だったようです
今は吾妻橋のような2車線の車道を両側の歩道が挟んだ欄干が有るだけの橋になっているようです
そして劇中の第一次大戦中もその姿のようです
いずれにしても何の変哲も無いただの大きい橋です
上野駅のような大きいウォータールー駅に渡るだけの橋です

その橋の欄干にもたれて夜の闇の中で物思いにふけり佇む初老の軍人
その姿を表現するにはその言葉しか有りません

戦時中の1940年の製作です
この年の5月末にはダンケルクでイギリス軍40万人が命からがら大陸から逃げ帰っています
そして7月からはロンドン爆撃と首都上空での大空中戦がおこなわれています
つまり彼は今夜出撃すれば、命がどうなるかわからない状況であったのです
そのことを頭にいれるとより彼の心情が伝わってきます

ヴィヴィアン・リー27歳
美しく気高く、そして驚くほどに細い
バレリーナという設定に説得力のあるバレーを幼少から鍛練してきた女性特有の骨格と細さです
ほほも痩け気味です
それが薄幸の運命を表現してもいます

ラストシーンのウォータールーを目を大きく見開き歩道をさ迷う鬼気迫る表情の演技は心に刻まれる名演技でした

311の後にプチ結婚ブームがありました
大災害を目の前にして明日をも知れぬ死の恐怖を知った時、理屈を超えて人は恋を急ぐものだと感じたものです
まして戦争ならどうでしょうか?

明日もまた変わらぬ日々が続くという安心があるから、恋もまた急ぐ必要も無く、偶然の出会いも大切することもない
それが平和な現代の日本です
それは幸せなことです

しかし時は有限です
若い人生の夏は振り返ってみればあっという間のことです
明日死ぬかも知れないと思って生きれば、偶然の出会いももっともっと大切に育てることができるのかも知れません

あき240