劇場公開日 2005年6月11日

「「居間まで主ってきたこと死体!」「前部仕手」」いつか読書する日 kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「居間まで主ってきたこと死体!」「前部仕手」

2019年2月20日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 間違った日本語を使うことに抵抗のある50歳独身、大場美奈子(田中裕子)。朝は牛乳配達、昼はスーパーのレジ係、仕事で疲れ切ったた、読書しながら寝るのが日課だ。一方、岸部一徳演ずる高梨槐多も50歳。妻は病に臥して自宅療養。平凡に生きることが生きがいである、市役所勤務だ。高校時代にはお互い惹かれ合うものの、ある事件がきっかけで疎遠となってしまった二人。初恋の日から30数年経った熟年カップルによる単純なメロドラマかと思いきや、認知症、自宅介護、児童福祉という現代的なテーマが輻輳して、心に染み入る重厚な社会派ドラマとなっていました。

 自らを殻に閉じ込めてしまい、牛乳を配達することが生きがいだと自分にまで嘘をつく美奈子。妻へ最大級の介護を施し、たっぷりの愛情を注ぐが、妻からは内面が読めないと思われている槐多(かいた)。いつしか妻の容子も牛乳配達の時間を正確に覚えるくらい、ルーティーンを大切にしてしまっている。

 かつては、牛乳配達用の牛乳箱なんて日本中どこの家庭の玄関先にあったものだ。紙パック入りの牛乳が普及し、朝早くにカチカチとビンがぶつかり合う音も久しく聞いてない。今ではピラミッド型の紙パックさえ見かけなくなってしまった。この懐かしい牛乳ビンを毎日配達するという日常が平凡を愛する男の宅にも届けられ、30年という世界を告白できない二人の静かな時を刻み付けていく・・・また、玄関先で受け取った牛乳をそのまま飲むじいさんが素敵だ。

 皆川夫妻は認知症。敏子(渡辺美佐子)も少々その気があるのだが、英文学者の夫真男は進行が早かった。彼のボケるというイメージを内側から描いた描写も素晴らしく、一瞬、観客をもボケの世界に引きずり込んだようなシーンが光っていました。徘徊という症状も、静かな町に住む登場人物に心の変化をもたらし、物語にアクセントを与えている。しかし、敏子だって、吸いかけのタバコがあるのに、二本目を吸ってるし・・・危ないよ・・・

 二人の心が通じ合う場面は、不器用な男と未経験の女という性格を見事に描写。岸部一徳の演技は今までで最高のように思う(あまり見てないのかな・・・)。ラストは賛否両論でてくるのでしょうけど、美奈子が力強く生きていくためには、この展開が一番自然だったのではないでしょうか。

2005年マイベスト

kossy