「「泣くんじゃない!」「笑うな!」って言うけど甥っ子よ」映画 クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ アッパレ!戦国大合戦 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0「泣くんじゃない!」「笑うな!」って言うけど甥っ子よ

2018年4月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

萌える

あなただって泣き笑いしていたじゃない。ほんと、ボロボロに。

小学中学年にしては、ふだんどちらかというと醒めた感じの甥。でも、真剣に感情移入して観ていたなあ。
 もう、後半なんて、泣いているんだか、笑っているんだか、二人ともわからなかった。帰りは久々に同じ題材で語り合ったというより、あんなに熱く語る甥は初めてだった。

 ふだんは「しんのすけ~!!!(檄)」が印象深いみさえ。
 同じく普段は、畳の上のトドのごとくゴロ寝したり、バカやったりして、みさえから檄を飛ばされているグダグダな印象が強いひろし。
 どこにでもいる夫婦・父と母。
 そんな、あ・の・グダグダひろしが、あ・の・みさえが、ここでこう言うかぁ、こう動くかぁと、この映画に描かれていない普段のひろし・みさえを想像すると、あの台詞、あの行動がなおさら胸を打つ。
 子どもを守る。ビビりながらも、子どもに大人たる姿を見せる。そのギャップに萌える。
 やっぱり、クレヨンしんちゃん一家でないとだめなんだ。この映画は。

戦国時代の大人達も、しんのすけのおバカをさらっと受け入れる度量を持っていて、大人は大人できっちり生活しているから、各登場人物にしっかり感情移入できる。
 未来の話を聞いて、今の生活の虚しさを知る殿さまの決断。娘を想う気持ち。それを受け入れる民草。その絆。ここでもうるっと。
 一見ダメンズに見えるが、芯はしっかりしつつの青空侍。しんのすけへの態度になんて良い奴なんだ度がアップする。
 お姫様も健気で可愛い。

 一つ一つのエピソードを、あっさりと、だけどきっちりと話の筋を通しつつ、ギャグを入れてくる。前半はのどかな風景と相まって、戦のやるせない様子を静かに取り入れて、のどかに話が進み、後半炸裂。泣き笑いの嵐。

そして発せられるしんのすけの言葉。例え普段大人をおちょくってバカやっていても、こんなまっすぐな心を持ち続けたいなと感動~!。(大人の私は子どもにこんなふうに指摘される大人になっていないかとドキッ!ともする)

そしてラスト。迎合しない。
衝撃、余韻。このラストがあるからこの映画は普及の名作となった。

ここまでやるかというほどに時代考証がしっかりしているのは有名。
 思いっきり手を挙げて見送る姫の二の腕をしっかり整える乳母。この時代に女が二の腕見せるなんてはしたないと思われていた、そんな細かいところまでしっかり描く。そんな様が本当にさりげなく描かれているから、時代ものオタクではない私は最初スル―しちゃったほど。後から見直して「あ」と気づく感じ。決してうるさくない。

 大人のための映画という意見があるけど、そうは思わない。
 話の筋はあまり複雑にしておらず、すっきりしている。
 恋だけでなく、青空侍の生きざまとか、袖すりあうも…の縁・義とか、上に立つ者の矜持とかが、さらっとだけれど結構詰め込まれている。鑑賞しなおすたびに、心に響くところが膨らんでいく。
 なのに、映画としては詰め込まれた感がない。”青空侍”のように、青空がどこまでも広がっていく感じ。そのバランスが見事。
 そして、味方キャラと敵キャラの相対-民草や命を愛おしむ者たちと、ないがしろにする敵キャラ等-などで、けっこう単純に描かれており明確。
 だから、小学生でも幼児でも、自分が好きなポイントにはまって楽しめる。
 とはいえ、このラストの痛みがわかるのはやっぱり10歳前後位からじゃないだろうか。

子どもに本物を与えようと、妥協なしで正面切って本気で取り組んだ作品。
大人にも見ていただきたいけど、子どもにこそ観てほしい。

突っ込もうと思えば、重箱の隅をつつくごとく、突っ込めるところもあるけど、
これほどの映画に出会えた至福に感謝します。

とみいじょん