劇場公開日 1968年8月14日

「見応えある日本帝国軍戦記」連合艦隊司令長官 山本五十六 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5見応えある日本帝国軍戦記

2020年9月27日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

WOWOWの放送で観賞。

子供の頃、母親に連れられてこの映画を劇場で観た。
1968年8月の公開だというから小学校1年生の夏だが、母親が山本五十六という人がいかに立派な軍人だったかを力説していたことをうっすら憶えているので、もっと後だった気もする。
オープニングの加治川の小舟の上で逆立ちするシーンはよく憶えている。五十六の人物像を紹介する日本の伝記映画らしい演出だ。
映画は「定説」に割りと忠実に描かれている。

帝国軍人の中にも戦争を望まない人たちはいた。
島国日本の陸軍は海を歩いて渡らない限り海軍なくしては戦えない。海軍は最強艦隊として世界に勇名を轟かせている。
陸軍省はソ連の脅威に対抗するためにドイツと軍事同盟を結びたいのだが、海軍省は三国同盟が締結されると米英との開戦が避けられないことから反対している。

海軍省次官から連合艦隊司令長官に抜擢された山本五十六は、戦争はすべきではないと考えながら、一旦日米衝突が確定的となれば、日本が有利な立場でアメリカを講和交渉に誘導出きるように米艦隊に打撃を与える策を立てる。
真珠湾攻撃の直前まで、 アメリカ側に宣戦布告したかを外務省に確認しようとする正々堂々たる軍人だ。

男たちはそれぞれに軍人魂に満ち、気概と悲哀の場面が続く。人間ドラマは割りと淡々とした演出で描かれているが、その一方でミニチュア特撮シーンは凝っている。
ミニチュアであることは分かるのだが、そこに存在しているからこそのリアリティとでも言うか、CGでは出せない迫力がある。ハイスピード撮影によって重量感を出す技術が、空母や戦艦が波を切って進む姿を勇壮に映し出している。
円谷英二としては晩年の作品である。過去作からの流用映像も多いようだが、零戦の窓越しに撃墜した敵機を見るシーンなど、拘りと挑戦は感じられる。
真珠湾攻撃に向かった零戦がオアフ島を回り込むときに木々の枝葉を揺らす場面、空母の甲板から零戦が飛び立つときの移動撮影などは心憎い。
いよいよ五十六最期の飛行場面、派手ではないが、護衛機の前に雲間から敵機編隊が出現するシーンは芸術的だ。

有利に進めたはずのミッドウェイ海戦で日本が敗退したのは、敵艦隊の動きを見誤った、あるいは索敵機からの情報処理を誤ったことに一因があった。
艦載機の魚雷を爆弾に積み替え、また魚雷に積み替えるドタバタが実際にあったようだ。
この海戦が太平洋戦争全体の形勢を逆転し、この大戦の行方を決したとも言われている。物資に劣る日本軍は敗戦に向けて突き進んでいくことになる。

開戦前、五十六が近衛総理に言う「はじめの半年や1年はずいぶんと暴れて見せましょう。2年3年となると、全く確信はありません!」

kazz