劇場公開日 1957年10月1日

「人間の人生の縮図がここにあります」喜びも悲しみも幾歳月 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人間の人生の縮図がここにあります

2020年1月16日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

号泣しました

灯台守の世界は特殊な職業かも知れません
しかし、終盤に主人公夫婦が語るように、現代では普通の勤め人であっても今や海外へ赴任していくこともある世の中です
海外でなくとも、主人公夫婦のように全国を転勤して引っ越し続きなことは当たり前
子どもの就学の為に単身赴任する事も普通のことです
劇中では別居と呼んでいます
単身赴任という言葉がまだ無かったのだと思います
それだけ夫婦や家族が別れて暮らすことは異常な事だという意識があったということです
逆に言えばその異常な事が普通の事になっている現代が異常と言うことなのだと思います

灯台守家族の異常な生活の半生記
それは特殊なようで実は普遍性のある半生記でもあります
極端で過酷すぎるだけなのです
ずっとずっとマイルドですが、日本の端から端に辞令ひとつで転勤していくサラリーマンの世界と変わりはありません

妻や子ども達にどれだけの負担を掛けてきたのか、今更ながらに胸が痛みました

大都会から大都会の転勤なんて、確かに灯台のに比べれば安楽過ぎて大したことではありません
しかし知らない土地、耳慣れなない方言、友人も、知り合いも、親戚も誰もいない土地
自分は仕事に出れば転勤先でも同じ会社でしょうが、家で待つ家族はどうでしょうか?
妻や子供達の孤独さ、心細さ
新婚で赤ちゃんを抱えて知らない都市に転勤した時の事を思い出しました
ある日早く帰った夜、一緒に夕飯を食べて二言三言言葉を交わした時、妻は今日初めて言葉を交わしたと言いました
知らない土地で赤ちゃんと二人だけで、スーパーに買い物に行っても無言なのです
絶海の孤島に建つ灯台守の妻と何の変わりがあるでしょうか

そして長い単身赴任
いかに大都会であっても、遊びに行くところも、気晴らしにいくところが幾らでもあっても
家族がいない独りきりの部屋に帰って来たときの孤独さは消えはしません

職責を果たす為に家族を犠牲にして働く
立派で尊いことかも知れません

灯台の職責と比べれば、サラリーマンの職責なんてどれほどのものか
人命がかかった仕事とは比較もできません
それでも、灯台守と同じように家族と自分を犠牲にしてみんな暮らしているのです

現代では結婚もしない若い人が多くいます
彼ら彼女らも当然全国どこへでも独りきりで転勤していきます
大都会かもしれません、聞いたことも無い田舎町かも知れません
そこにいきなり赴任して独りきりで暮らす
その孤独さは灯台守にも匹敵するかも知れません

妻がいるからこそ、家族かいるからこそ、灯台守は職責を果たせるのです
サラリーマンだっておなじです

妻と子供達に掛けてきた苦労と孤独に今更ながら、頭が下がり感謝するしかありません

ラストシーンは灯台と国際航路の客船との霧笛の呼応でエンドマークが出て終わるのかと思っていると、更に続きます
本当のラストシーンは海霧が立ち込めている海岸段丘の上の灯台に向かう荷物を両手に持った年配となった主人公夫婦の遠景で終わるのです
それは冒頭の新婚で赴任して来たシーンとつながるのです

子供達を育てあげ、死んでしまった子、立派に育って幸せになった子
今また夫婦だけの二人に戻り、最初の時のように働いて暮らして行くのです

人間の人生の縮図がここにあります
灯台の位置を示す日本地図とはその意図を持った演出だったのです

高峰秀子の妻役は見事の一言しかありません

日本映画屈指の傑作だと思います

あき240