劇場公開日 1980年9月20日

「黒木和雄の作品としてはあまり語られる機会の少ないけど桃井かおり目当てで鑑賞」夕暮まで ミラーズさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0黒木和雄の作品としてはあまり語られる機会の少ないけど桃井かおり目当てで鑑賞

2020年8月11日
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鑑賞方法:映画館

一緒に寝ても、体を開こうとしない若い女と、中年の作家の関係を描く吉行淳之介の同名の小説の映画化。ソフト化されておらず桃井かおり目当てで鑑賞。

今回の上映プリントの状態は、退色して全面にマゼンタ浮きが目立つセピア感が強いので、意図的に写し出される踏切や埠頭などの赤い電球の発光なども判り難い。しかしキズは少なめでコマ飛びも殆ど無い。

吉行淳之介の小説「夕暮まで」が原作で、中年作家(作者の投影)伊丹十三と愛人(パパ活に近い)となる桃井かおりとの肉体関係を巡る話しだか、女性が関係を拒み続けて平行線を辿る。

冒頭から二人で地方と思われる海辺に逃避行風に現れそこから駆け出して、過去に巡る。
出会いと数度にわたる交際が語られるが、洒落たレストランや高級料理店での食事までで性交渉に至らずにお互いの感情に変化が無い

アワビのアップやローション代わりのオイルなどの露骨な描写など全編通してメタファー的に二人の食事を扱っている。多分、食通で様々な薀蓄ある伊丹十三がアドバイスしてる可能性も。そういえば後年の伊丹監督作「タンポポ」も食べ物巡る薀蓄話だ。

伊丹十三扮する作家の佐々は、妻と一人娘と共に緑に囲まれた洋館に住み、複数の愛人がいる、絵に描いたような人物を、ダンディな佇まいで無理なく演じてる。

佐々が関係を持とうする杉子を桃井かおりが、気怠そうに演じているが、風間杜夫の旅青年との交流と突然の別れで、現状の自分に戸惑いを覚えていく様にも感じるが、劇中で殆ど彼女の私生活が語られることは無く、何処に住んでいるのかもあやふやで、捉えどころが無い。

冒頭の海辺での駆け出しも二人の距離感の表れなのかも知れないが、繋がりが弱いと思う。
そういえば、この時の杉子の服装は、キャリアOL女性のようなスーツと利発で落ち着いて雰囲気の髪型で、大人びている。

佐々が運転するホンダアコードが、角目ライトの後期型で、割と珍しい印象。伊丹十三本人は、外車だと思うが、本田技研協賛なので。

問題なのは、映画自体が何を描きたいのか焦点が定まらない印象で、佐々と杉子の複数ある逢瀬でも艶や色香が弱くて、ある種の官能的見せ場とはならずに、佐々とバイク青年とのエピソードも捉えどころが無い若者の象徴なのかと思うがあまり迫っては来ない。

黒木和雄作品としては、あまり語られない作品で正直今一つな出来だが、40年前の背景や生活風俗などを垣間見れる古い映画ならではの楽しみもあるので女優陣も含めて見所あり。

ミラーズ