劇場公開日 1981年6月6日

「ぞくぞくする…。」魔界転生(1981) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ぞくぞくする…。

2022年7月2日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

萌える

閲覧注意。親が子どもに見せたくないような場面もあるので、一緒に見る人は選んだ方がいいかもしれない。

色物的だけれども、実は王道の、「これぞ映画」と言いたくなる作品。迫力と魅力にあふれている。

天下(社会)の転覆・動乱を狙うんなら、転生するメンバー間違えているんじゃ?と突っ込みたくなる。だが、手に汗握る展開になっており、このメンバーの方が正解と言いたくなる。すごい。

自己実現への追及。
社会的な己と、その社会的な己にふさわしくないと抑圧した願望。
その対比が凄まじい。
 敬虔な信者であったはずの己と、その思いを踏みにじられ復讐の鬼と化した己。
 大切にしていたものを踏みにじられたその恨み。
 清廉潔白なカトリック信者としての己と、夫との愛欲に没入したかった己。
 清廉潔白な僧である己と、性への欲望を持つ己。
 力・勝負への執着。
 子を慈しみ育てる己と、慈しんだ子さえも永遠のライバルとして対峙する己。
 ただの社会への恨みではなく、自身の内面に潜む蛇・鬼に焦点を当てたところがすごい。
 抑圧すればするほど、抑圧された思いは肥大化する。
 だから、社会的な己と欲望との葛藤が少ない霧丸が、新たに大切なものができた時、他の魔人たちとの間に差異が生じるのは当然の成り行きなのだろう。

そんな己の煩悩との対決を、絵巻のように、転生した人物のこれまでと結末がスピーディーなれど丁寧に、一人一人の見せ場を作り、迫力をもって描かれ、見ごたえのあるものになっている。

それを堪能させてくれる演技と演出。舞台美術と衣装。音楽。
 鬱蒼とした森の中、洞窟の中、夜etc.と画面は暗く、霧が立ち込めるシーンもあり、画像の悪い再生機器だと見づらいシーンもあるが、怪奇物としての雰囲気を煽ってくれる。

沢田さんのバター系美形が西洋系の悪魔の呪文を唱えるも、衣装は能衣装を基盤とした日本風。立ち振る舞いも純日本。そのコーディネートに酔いしれる。
沢田さんの高そうで低めの声がいい。

そして、佳那さんの艶。目が釘付けになる。それでいてガラシャの壮絶なまでの悲しさがガンガンに伝わってくる。ガラシャに骨抜きにされる将軍・松橋さんもそのグダグダさが凄すぎる。

そして霧丸の若さ、美しさ、初々しさ。

と、耽美な世界に酔いしれると、質実剛健な面々の登場。その配分が良い。

質実剛健とはいえ、皆自分の欲望に狂っていて、妖しい世界。
但馬守(若山さん)、武蔵(緒形さん)、胤舜(室田さん)、魔人ではないが村正(丹波さん)…重鎮のどっしりとした世界観と狂った様の混合。凄すぎる。
 松平伊豆守(成田さん)が普通に見える…。

そして、十兵衛(千葉さん)。いつもより、さらにワイルドに、王者の風格を漂わせ…。
 それでも、但馬守(若山さん)と対峙すると、老練と、中堅。その様に息を飲む。能にも通じる様式化された美を持って殺陣を繰り出す若山さん。質実剛健をそのまま体現する千葉さん。はあぁ。

天下転覆にこのメンバーでいいのかと冒頭に書いたが、
傾城と化したガラシャの住まう城での阿鼻叫喚の様はすさまじく、そこで繰り広げられる対決もすごい。

本当に燃え盛る火の中での撮影。
 映画界の至宝・若山氏、千葉氏、松橋氏をその中に立たせるだけでも驚愕だが、立たせるだけでなくあの殺陣・あの演技。女優の佳那さんにも炎の中で演技をさせる。そのうえで、役者として主演映画もありつつも本業は歌手で、日本の至宝として数多くのファンをもつ沢田氏をもその中に立たせる。
 もちろん、エキストラ、スタッフも…。
 どれだけ気合の入った映画なんだ。

こんな濃い場面ばかりだと食傷気味になるが、見せ場の一つ、武蔵VS十兵衛は海辺のロケ。自然相手というところが対決の展開に含みをもたせるが、海辺の解放感にも酔いしれる。

おつう(神崎さん)、お光(菊地さん)とガラシャ(佳那さん)の対比もいい。

そんなこんなの緩急。
結末がわかっていても、なおかつ何度も観たくなる。

さすがは深作監督。
絶句。
ひたすら脱帽して、この世界観に酔いしれるのみ。

(原作未読。リメイク版、Vシネマ未鑑賞)

とみいじょん