劇場公開日 1980年11月22日

「思えば思うほどゾっとする」震える舌 閑是宝さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0思えば思うほどゾっとする

2020年6月25日
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鑑賞方法:VOD

 肉体的にも精神的にも最も辛いのはもちろん破傷風に侵された昌子であり、苦痛に苛まれる演技は凄まじく、強烈な印象を打ち付けられる。
 しかしそれ以上にこの作品において特筆すべきは、両親の憔悴の過程であると思う。両親が精神を蝕まれる要因として以下があげられる。
1. 昌子の痙攣。
痙攣が来ることはすなわち昌子が血を流し苦しむことである。タイミングを把握しきれないため絶えず緊張を伴う。
2. 暗い部屋、密室状態。
日の光を浴びないとヒトが持つ概日リズムが崩れ、セロトニンが十分に分泌されず、鬱になる。
3. 音や光の刺激。
1にも関係するが、痙攣のトリガーとなるため音や光の刺激に対し、過剰に反応してしまう。
4. 医療器具の物々しさ。
容態が悪化するにつれ使用する装置、器具が大型化する。
まだまだ挙げられそうだけど私が思いつくのはこのくらい。まだありそう。
 現代では、憔悴するまでの機序がある程度明らかになっているが、それを作者が学んだか類まれなる観察眼によって作品という形にしたのだと思うと、この作品の深さが伺える。
 そして両親の精神状態に関して言えば、これは我々にも起こりうることだと訴えている作品とも言えるはず。途中昭の母が登場し、昭が幼少期に病に罹った時のことを指し、次はあなた達の(辛くとも子を見守る)番が来たという旨を話す。この映画は当時こそ破傷風の恐ろしさを訴えたかもしれないが、むしろどの病であろうと、心を病むほど大切な人を心配するような出来事は身の回りに溢れているのである。それがたまたま沼に棲む菌だっただけで、新型コロナでも、交通事故でも、通り魔でもどこにでもある危険性なんだと思う。私はそのことこそがとても怖ろしいと思った。

閑是宝