日本の悲劇(1953)

劇場公開日:

解説

「カルメン純情す」の木下恵介が脚本・監督とも担当し、撮影の楠田浩之、音楽の木下忠司も「カルメン純情す」のメムバアである。バイプレイヤアの望月優子が主役に抜擢され、「次男坊」の桂木洋子、高橋貞二、三橋達也「妻」の上原謙、高杉早苗、「女性の声」の佐田啓二、「姉妹(1953)」の淡路恵子、その他俳優座の新人田浦正巳、民芸の北林谷栄、劇団若草の榎並啓子(子役)他が出演。

1953年製作/116分/日本
原題:Tragedy of Japan
配給:松竹
劇場公開日:1953年6月17日

ストーリー

熱海の旅館「伊豆花」に女中として働く春子は戦争未亡人である。終戦前後の混乱どき、歌子と清一の二児をかかえて、かつぎ屋やら曖昧屋の女やらにまで身を落し、唯一の財産だった地所も悪らつな義兄夫婦に横領された。彼女のいまの生甲斐は、無理して洋裁学校と英語塾に出している歌子、医科大学に通わせている清一だったが、当の二人は母に冷めたい。というのも母と客との酔態をかいまみた子供心の反撥が今に至っているわけである。その美貌にもかかわらずまっとうな嫁入り口もないことを母の行状のせいにした歌子は、いつかシニカルな娘となり、彼女に心を傾けている英語教師赤沢の妻霧子のはげしい嫉妬さえ鼻先きであしらうしまつ。一方清一は最近、戦争で息子を失った資産家の医師から養子にのぞまれ、籍を移してくれと頼んでくる。むろん春子は子供ゆえのいままでの苦労を強調し、気狂おしく反対するが、そのおしつけがましい愛情がいよいよ子供らの心を遠のかせた。歌子は愛してもいない赤沢と駈落ちする。あわてた春子が急遽上京、すでに資産家の医師の邸にすみこんだ清一に相談しようとすると、息子はただ籍のことだけを固執した。その冷静な語調。--彼女はあきらめて養子の件を承諾する。生甲斐を失い、子供らの小遣いにもと手をだしていた株に失敗した春子は、東京からの帰路、湯河原駅のホームより進行中の列車に身をなげた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

0.5良い子の皆様へ 錦ヶ浦まで我慢しましょう♥

2024年1月4日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD
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マサシ

4.0長回し

2023年9月24日
iPhoneアプリから投稿

板に遮られて画面半分、向こうのほうから上り電車が横切っていく。主人公の動きと共にカメラも動き、もう半分があらわになる。大きくカーブし入線してくる電車が近づく。行き詰まった主人公の思いが伝わる。
度々挿入される新聞記事に母子無理心中の文字がおどる。生きる力のあった主人公と出来がよい子供たち。生き残った末に迎えた悲劇は、可哀相にという気持ちにもなれぬ殺伐とした現実と乾いた人間関係。誰をも責めることもできない。自らに痛みを突き刺す。

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Kj

4.5断絶

2023年5月18日
iPhoneアプリから投稿

復興への野心に燃えながらもまだ戦禍の残滓が残っていた頃の日本。叔父の闇市稼業を官憲にチクった歌子が無罪放免となった叔父から返り討ちを食らうシーンが示す通り、そこには道理や道徳がおよそ入り込む隙が無いほどの混沌があった。そうした残酷な戦後リアリズムの中に産み落とされた歌子と清一が母・春子の思いも虚しく情け無用の冷徹な性格に育ってしまったという「悲劇」は、もはや親子間のコミュニケーションという個人的領域では如何ともしがたい歪んだ重力が当時の日本社会に瀰漫していたことの証左だ。

世の中には清貧という概念があるが、私はこれを信用しない。倫理や愛や道徳もまたある種の嗜好品ではないかと思う。アブラハム宗教的な無底的信仰がもはや無効となった現代においてはなおさらそうだ。日本にアブラハム宗教はほとんど浸透していなかったが、代わりに天皇がいた。戦前の日本人は天皇崇拝を通じて自分の利益を度外視した他者との向き合い方を心得ていた。したがって「お母さんは馬鹿だ」と言い捨てる清一と「お母さんと呼んでくれてありがとう」と涙をこぼす春子の対比には、戦前世代と戦後世代の不可視だが根深い断絶が表れているといえる。あるいは全体主義と資本主義の、「東側」と「西側」の断絶と形容してもいいかもしれない。何でもいい、とにかく日本は変わってしまったのだ。

2人の子供に見捨てられ、湯河原駅で上り電車に飛び込んだ春子。彼女の死を悼む者が、歌子と清一からすれば「馬鹿」に分類されるであろう板前と流しの若者たちだけだったというのが物語の悲劇性をことさら強めている。

木下惠介の野心的作風は本作をもっていよいよ爛漫の開花をみたといって差し支えない。本作に続く『女の園』『二十四の瞳』は木下作品の中でもとりわけ傑作との呼び声が高い。現実の写真や新聞記事をモンタージュしたドキュメンタリー的な手法もさることながら、カメラの回し方や構図も見事なものだ。特に春子と清一が戦死した父の墓前で言い合いになるシーンは印象的だ。墓の陰から遠巻きに二人の動向を映していたカメラは、立ち去っていく清一をドリーで追いかけ、やがて見失い、それから意気消沈の春子とともに再び最初の位置へと戻ってくる。技巧の顕示に走った感じがなく、なおかつ最大の演出効果を発揮した秀逸な長回しだった。

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因果

4.5母の愛情と苦労が徒となる、戦後日本社会に埋もれた女性の悲劇

2021年11月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

ある親子の断絶を、価値観の変化が顕著な戦後日本の社会背景で描いた木下惠介監督の力作。子供の為に生きてきた母親の、その精一杯の苦労の仕方が徒となる悲劇をラスト衝撃的に描いた主張の明確な映画文体がまず見事。次に現在と過去のモンタージュに独自の演出を試み、主人公の記憶と行動を説明する映画ならではの編集の表現が、独特な映画スタイルを創造していた点が評価に値する。ドラマ自体の重厚さと編集演出の技巧の組み合わせに、斬新にして不思議な魅力がある。それは例えばフランスのアラン・レネの記憶と現在の演出に近いもの感じさせて、常に挑戦的な映画作りをする木下監督の特長を表している。日本映画でありながら、ヨーロッパ映画のスマートさを印象に持つ。主演望月優子の熱演がまた素晴らしい。通俗的母もの映画とは一線を画す社会派映画の傑作である。

  1979年 7月3日  フィルムセンター

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Gustav
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