劇場公開日 1952年2月15日

「切なさを噛み締める人々」とんかつ大将 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

5.0切なさを噛み締める人々

2015年7月3日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

泣ける

笑える

幸せ

登場人物のすべてが切なさを噛み締めて生きている。互いの切なさの理由が絡み合い、物語が深く太く進行していく。
佐野周二演じる主人公は、権力や金の力を笠に着た態度を嫌い、貧しくとも健気に生きる者へ愛情を注ぐ、言わば下町のヒーローである。しかし、父親とは反りが合わず、かつて結婚を約束した恋人は戦後の混乱の中、親友と所帯を持ってしまっている孤独な内面を持つ男でもある。
二度目の鑑賞にもかかわらず、佐野の素性を知った亀の子横丁の人々が彼のもとを去っていくシーンには、悔し涙がにじんだ。
裏切られた友情、失くした恋、相手の片思いを見守ることしかできないもう一つの片思い、慕う相手からの軽蔑。錯綜する人々の切なさを、混乱を微塵も感じさせずにラストの幾つかの和解へとつなげていく川島雄三の脚本と演出が最高。

佐分 利信