劇場公開日 1939年10月14日

土と兵隊のレビュー・感想・評価

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4.0日本兵士の苦労に寄り添った記録性の高い国策戦争映画にある田坂監督の良心

2020年4月18日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

日本兵士の泥まみれの活躍を描いて愛国心忠実なる力作「五人の斥候兵」を成功させた田坂監督が、その栄光を担って火野葦平文学の映画化に取り組んだという。当時の大作、例えば溝口健二の傑作「残菊物語」が15巻であるのに対して、この作品は18巻の大長尺ものになっている。軍部の制作熱も相当であったと思われるし、実際に田坂監督は中国大陸に渡って戦線の視察を行い、同地でのロケーションも思う存分出来たということだ。そのため、戦闘シーンは迫真の臨場感に溢れ、また映像的にも洗練された美しさと鮮明さを持つ貴重な記録映画の性質も兼ね備えている。
戦争とは歩くことだと実感した田坂監督は、大陸を進軍する歩兵の絶え間なく続く”歩き”を執拗なまでに撮影して積み重ねていく。小杉勇演じる玉井伍長が太っている為にその疲労も激しく、分隊の笑い話の種になるところに、救われる人間ユーモアが残されている。軍部の支配下で制作された戦争映画ではあるが、日本の兵士一人ひとりの勇気と真摯な行動をクローズアップしてもプロパガンダのメッセージ性は薄く、今日的な視点からでも、信頼関係を築いた人間ドラマとして鑑賞できる。同時期の国策映画である、兵士の犠牲を崇拝したドイツ映画「最後の一兵まで」とは趣を異にする。
とは言え、激しい射撃に続く突撃を二度もクライマックスにして、日章旗の泥に塗れた場面を観れば、戦意高揚を感じない訳ではない。当時の社会的な背景と民衆の期待感に染められた時代を象徴する戦争映画の実録性を、どう判断するかが問われる。戦争をしない為の考察の参考になれば、意味ある映画経験になるであろう。苦闘する生真面目な日本兵士が描かれている美しさは、日本人の心情だけに許された自尊心であり、どこの国にでも有り得る姿である。

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Gustav