劇場公開日 1962年4月18日

「演出と撮影が素晴らしい そしてなにより勝新太郎!」座頭市物語 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0演出と撮影が素晴らしい そしてなにより勝新太郎!

2020年5月13日
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鑑賞方法:DVD/BD

めくらだとか、かたわだとか、そんなこと言ったって、別に文句は言やしねえよ
その通りだもんな
だけどね
たかがめくらだとか、めくらのクセに・・・フッ
めくらを侮っていなさることに文句がある

昨今のポリティカルコレクト(PC)による言葉狩りにはこの座頭市の台詞を問いかけたいものです

画期的なヒーローのキャラクター造形です
それを説明するカットの的確さ
しかし居合い斬りの腕の凄さは、彼の勘の鋭さだけを見せて予想させながらも、なかなか披露してくれません
ようやく上の台詞があって初めてそのシーンとなります
燃えるろうそくを空中に投げて居合い抜きでぶった斬る
横にではなく、縦に真っ二つ!
しかも芯まで縦に切り分けており、火は左右に転がる二つのろうそくで燃えている
この痺れる演出
画面のなかで息をのんで仰天する一同の姿は観客の私達の姿です

このシーンで本作のやりたいことは半分終わってしまったといっても良いと思います

残りの半分は天地茂の演じる平手造酒とのエピソード
溜池での釣りでの出会い、寺での酒の酌み交わし、そして橋上での決闘
どのシーンも最高だ!

つまり天保水滸伝に題材を取った筋立てはこの二つを撮りたいがための、お膳立て、舞台設定に過ぎないのです

全てが終わり飯岡の町をでる時、市はドスを寺の小坊主に託します
平手造酒の亡骸と一緒に埋めてくれと

市がめあきから侮られたく無いために修練して会得した居合い斬りの技
それを捨てるという意味です

平手造酒との交友は、彼が本当に求めていたこと
それはみあき、めくらとか関係なく、お互いの人間性だけを認めあった人と人との心からの付き合いだったのです
居合い抜きの技をあそこまで高めたのは侮られたく無いためにではなく、人として認められたかったからだったと彼は気がついたのです
それを達成したからには最早こんなドスは不要
人として互いに認めあった友人を斬ったドスは忘れさりたいものになっていたということです

そして待ちぼうけをくう女のカット
市は道を逸れておたねを避けて去っていきます
おたねは彼を杖となって支えると言い彼を慕いますが、平手造酒のように互いを尊敬しあった関係では無いのです
市にとっては煩わしいだけだったのです

彼は林の斜面から道に戻り遥かな空の先に歩いて行きます
手前には伸び放題の草が取りのされています
それは残されたおたね、町の連中、観客たる私達のことでしょう
そしてエンドマーク

この全てを振り捨てて去っていく市の後ろ姿の果てしない虚無感は本当に印象的です

居合い抜きの技
それは人と人との本当の尊敬しあう関係を作りたかった為に始めたものだったのに、それは二度と出会えないであろう真の友人の命を奪ってしまったのです

演出と撮影が素晴らしい
そしてなにより勝新太郎!
彼でなければ本作の成功はなかったでしょう

座頭市
日本映画永遠のヒーローとしてこれからも失われることのないキャラクターでしょう

あき240
kazzさんのコメント
2021年8月31日

素晴らしいレビューに、感銘しました。

kazz