香華

劇場公開日:

解説

有吉佐和子の同名小説を「死闘の伝説」の木下恵介が脚色、監督した文芸もの。撮影もコンビの楠田浩之。

1964年製作/201分/日本
原題:The Scent of Incense
配給:松竹
劇場公開日:1964年5月24日

ストーリー

〈吾亦紅の章〉明治三十七年紀州の片田舎で朋子は父を亡くした。三歳の時のことだ。母の郁代は小地主須永つなの一人娘であったが、大地主田沢の一人息子と、須永家を継ぐことを条件に結婚したのだった。郁代は二十歳で後家になると、その美貌を見込まれて朋子をつなの手に残すと、高坂敬助の後妻となった。母のつなは、そんな娘を身勝手な親不孝とののしった。が幼い朋子には、母の花嫁姿が美しくうつった。朋子が母郁代のもとにひきとられたのは、祖母つなが亡くなった後のことであった。敬助の親と合わない郁代が、二人の間に出来た安子を連れて、貧しい生活に口喧嘩の絶えない頃だった。そのため小学生の朋子は静岡の遊廓叶楼に半玉として売られた。悧発で負けず嫌いをかわれた朋子は、芸事にめきめき腕をあげた。朋子が十三歳になったある日、郁代が敬助に捨てられ、九重花魁として叶楼に現れた。朋子は“お母さん”と呼ぶことも口止めされ美貌で衣裳道楽で男を享楽する母をみつめて暮した。十七歳になった朋子は、赤坂で神波伯爵に水揚げされ、養女先の津川家の肩入れもあって小牡丹という名で一本立ちとなった。朋子が、士官学校の生徒江崎武文を知ったのは、丁度この頃のことだった。一本気で真面目な朋子と江崎の恋は、許されぬ環境の中で激しく燃えた。江崎の「芸者をやめて欲しい」という言葉に、朋子は自分を賭けてやがて神波伯爵の世話で“花津川”という芸者の置屋を始め独立した。〈三椏の章〉関東大震災を経て、年号も昭和と変わった頃、朋子は二五歳で、築地に旅館“波奈家”を開業していた。朋子の頭の中には、江崎と結婚する夢だけがあった。母の郁代は、そんな朋子の真意も知らぬ気に、昔の家の下男八郎との年がいもない恋に身をやつしていた。そんな時、神波伯爵の訃報が知らされた。悲しみに沈む朋子に、おいうちをかけるように、突然訪れた江崎は、結婚出来ぬ旨告げて去った。郁代が女郎であったことが原因していた。朋子の全ての希望はくずれ去った。この頃四十四歳になった母郁代は、年下の八らんと結婚したいと朋子に告げた。多くの男性遍歴をして、今また、結婚するという母にひきかえ、この母のため、女の幸せをつかめぬ自分に、朋子はひしひしと狐独を感じた。終戦を迎えた昭和二十年、廃虚の中で、八らんと別れて帰って来た郁代にとまどいながらも、必死に生きようとする朋子は“花の家”を再建した。それから三年、新聞の片隅に江崎の絞首刑の記事を見つけた朋子は、一目会いたいと、巣鴨通いを始めた。村田事務官の好意で金網越しにあった江崎は、三椏の咲く二月、十三階段に消えていった。病気で入院中の朋子を訪ねる郁代が、交通事故で死んだのは朋子の五十二歳の時だった。波乱に富んだ人生に、死に顔もみせず終止符をうった母を朋子は、何か懐しさをもって思い出した。母の死後子供の常治をつれて花の家に妹の安子が帰って来た。朋子は幼い常治の成長に唯一の楽しみをもとめた。昭和三十九年、六十三歳の朋子は、常治を連れて郁代のかつての願いであった田沢の墓に骨を納めに帰った。しかしそこで待っていたのは親戚の冷たい目であった。いかりにふるえながらも朋子は、郁代と自分の墓をみつけることを考えながら、和歌の浦の波の音を聞くのだった。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5朝ドラのヒロインは、女性をヒロインにしたかったから?

大好きな岡田茉莉子さんの作品ということで、視聴。
小説を原作に描かれた女・朋子の生涯を描いた長編大作である。
導入の田中絹代さんの演技と、主役である朋子の幼いながらに苦労して成長していく姿に引き込まれる。
しかし難儀を経て苦労を乗り越える度朋子が尻拭いをする展開に、木下監督は朋子の苦虫を
噛み潰したような顔の他に何を撮りたかったのかと思ってしまう。
原作は未見だが、女性というのはこの時代の主人公ではないのだという事をヒロインを通して暗に伝えているのだろう。
結局朋子には、自分を貶めた母親しかいないという皮肉さだ。
当時も今も、幸福な自立した女性像など居ないのだ。

 しかし改めて岡田茉莉子さんの達者ぶりには驚かされる。役者というのはやはり凄い。
もっと昔の出演作品も観てみたいのだが、方法を捜索中です。

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ケシミンクリーム塗りながらオイルデル

3.0大変な母に振り回される娘の人生航路

2018年8月3日
Androidアプリから投稿

昔 原作を夢中で読んだ記憶がある
大変な母を持った娘の話、なのだが ひたすら同情するしかない… という感じだった
降りかかる災難は、みんな母によって引き起こされるのだから…
有吉佐和子の視点は 娘の側にあり この母との闘いを書いているのだが、監督の視線はもっと柔らかいものになっている

長い話なので 筋を追う形になるが、芸者と花魁の違い、置屋のシステム、関東大震災と東京大空襲を経た東京の様子を 手際良く見せている

乙羽の母が チャーミングに見え、娘がいつも
キリキリしているように見えてしまうところもあるが、娯楽作品としてはまとまっている
セットも俳優陣も豪華

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jarinkochie

4.0鎌倉市川喜多映画記念館特別上映もたまに覗いて見ると名画に出会えますね!

2014年6月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

笑える

悲しい

楽しい

昨日ひょんな偶然で全く予期せずに、50年程前に制作された有吉佐和子原作の「香華」を
観た。

今年の3月に終了したフジの長寿番組「笑っていいとも」に、この有吉が出演した当時、TVジャックをしたと大きな話題をさらい、その後直ぐに53歳の若さで彼女は急死した、

私の中では有吉佐和子と言う作家は、もう既に30年も前に亡くなられた作家であり、どちらかと言えば、明治から昭和の時代を生きた女性像をテーマとして選んでいる印象が強い。数々のベストセラーを執筆したが、どれも古典文学のイメージが強く、彼女の原作である作品は、多数映画化されているにも拘わらず、それらの作品を観る機会を持つ事はこれまでは殆んど無かった。

そして木下恵介監督作品であるこの「香華」も既に公開から半世紀も経っている作品だ。
出演俳優で他界されている方も多いし、存命の俳優の方々も、当時は若い俳優でも今はベテラン俳優で、中々顔が一致しない点が多い部分、その事が逆にとても新鮮な目で作品を観る事が出来て、また違ったイメージでこの作品を楽しむ事が出来た。

明治生まれの母親が若くして未亡人となった事から、当時の片田舎の日本では珍しく再婚に次ぐ再婚を繰り返そうとする母の自由奔放に生きようとする彼女の人生に振り回されながらも、何としても親孝行を続けなければと、直向きに生きようとする古風な娘との女同士の親子の葛藤をコミカルに描いた作品で、観ていて笑いが絶えなかった。

アメリカを代表する女性作家の大作「風と共に去りぬ」もヒロインの自由奔放な生き様と彼女を支えるメラニーとの間で起きる物語は、見方によってはある種喜劇的な部分を含む事から、笑える部分も沢山あった。
同様に、本作「香華」は3時間を越える超大河ドラマのような作品で、休憩を挟んだ前後篇の作品だが、全く飽きずに、テンポの良い作品に仕上がっていた。
しかも、その現実的にはこんな身勝手極まりない母親を実際持っていたならば、絶対絶縁していたに違いないのだが、この母を乙羽信子が、実にコミカルに憎めない、可愛らしい女性として好演している点も実に素敵だ。
そしてまるで、親子逆転した様な、責任感も強く孝行娘の朋子を岡田茉莉子が熱演していた点もこの映画の更に良い点だ。この2人の女優のこの掛け合い、2人の間が何とも絶妙で観ていて実に面白い時間だった。ともすれば湿っぽくなるような題材である、この原作を楽しく飽きる事無く魅せてくれる木下監督の力と言うものも凄い。改めて名監督だったのだなと今にして思う。やはり邦画の黄金期である当時は小津監督ばかりでなく、数多くの立派な映画人が多数活躍していた時代なのだと、今更ながら思い知らされた!

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ryuu topiann
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