劇場公開日 1970年8月11日

「軍閥はマスコミに憑依して現代にまで生き残っているのです 軍閥化した無責任なマスコミこそ、日本をまた戦争に追いやるのです」激動の昭和史 軍閥 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0軍閥はマスコミに憑依して現代にまで生き残っているのです 軍閥化した無責任なマスコミこそ、日本をまた戦争に追いやるのです

2020年10月7日
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鑑賞方法:VOD

軍閥とは、軍隊の首脳部が軍隊に付与された特権と兵を掌握する実力を背景にして、政府や議会に対して独立した強大な政治的勢力のこと

つまりシビリアンコントロールの首輪を外された状況にある軍隊のこと

本作はその軍閥に戦前の日本が牛耳られて、無謀な対米戦を起こし国を滅ぼしてしまうまでを、主に東条英機を中心にして描いた映画です

明治維新以降の戦前の全期間が軍閥に牛耳られていたのでしょうか?
そうではないと思います
薩長の軍閥とよく言われますが、それは出身地による人事派閥のような意味合いであり、本作で言う政治勢力としての軍閥とは異なると思います

日清、日露、第一次大戦までは、確実に政府のコントロール下にあったように思います

それが何故、首輪を外された狂犬のようになったのか?

それは本作では語られません
何故、無謀な対米戦にのめり込んだのか?
それも本作では語られているようで、そうではありません

しかし、21世紀に生きる人間の目で、軍閥の彼らが憤激し、何と戦おうとしていたのか?
その精神構造を理解しうるものか?
そのような覚めた目で観てしまうのです

これは攘夷だったのだ
そのように見えました

幕末の尊皇攘夷を唱え、血気にはやる浪人達にそっくりだと思いました

太平洋戦争とは結局のところ、下関戦争、薩英戦争を国家規模で、巨大な再現をしてしまった戦争だったのです

侍、武士のプライドが彼らの精神構造の根底に刷り込まれていることを感じます

つまり明治維新は終結していなかった
攘夷の時代錯誤の心情は、軍隊の中にくすぶっていたのです

軍隊の中だけ?

違うと思います
日本国民全てがです
だから新聞は軍隊を持て囃したのです
戦争を煽りたてたのです

太平洋戦争に敗北したとき、初めて日本人は尊皇攘夷が破綻したことを、本当に無理だと理解しえたのだと思います

だから敗戦によって、遂に明治維新は完結したのだと言えるのではないでしょうか?

そう考えると、戦後の日本人がなぜ新憲法で軍備自体を廃絶するという、また無謀で空想的な体制にしてしまったのか、初めて理解できたように思いました

軍隊はもうごめんだ、それだけはなく、
攘夷に敗れたのだから、軍隊はもう要らない
そう自然に考えたのだと思うのです

小林桂樹の東条英機は、記録映像そっくりです
有能であればあるほど、実は無能
そんな人間が組織の最高部に押し上げられてしまう
日本人の作る組織の根本的な欠陥が活写されています

当時の日本のベストオブベストの人々がこうなってしまう
その恐ろしさは、今の日本人にも受け継がれています
千年に一度の津波に備えることを軽視して、日本を文字通り破滅の淵に落としかけた原発事故でも再現されています
その事故が起こった時の対応は、サイパン失陥の時と同じ無様さを呈していたではありませんか

ガダルカナルの戦いに敗北しての撤退を、転進と言葉を誤魔化すやり方

自分にも経験があります
会社が業績不振に陥って、営業拠点を幾つか閉鎖しなければならなくなり、その閉鎖稟議を書いたところ、その文言を変えさられました
曰わく、閉鎖を、営業休止と書けと

この精神構造は、疑いなく今の日本人にも継承されています

肝に銘じなければなりません

軍閥とは何か?
何故、軍閥が政治的勢力となって野放しになったのか?
「勝てる戦争何故やらぬ!」と戦争を煽ったのは、戦前のマスコミです
彼らを増長させ、結果として政府のコントロールが効かない状態にしたのはマスコミにも責任があるはずです

新聞は事実を伝えるだけが役割です
新聞が勝手な主張をすることが、結果的に日本を戦争においやったのです
負け戦になって事実を少しだけ報道したといって胸を張られても噴飯ものです

負ける為に俺は死んでやるのだ!
特攻隊員が、加山雄三が演じる新聞記者にこう言い放ちます

この台詞を聴いてハッとしました
特攻隊員は、自爆突入に成功したとしてもそれで日本が勝てるなど信じられなかったはずです
少しは敵の侵攻を遅らせることができるだろうくらいしか期待出来ないことは分かっていたはずです
それでも特攻に出撃していくのは何故か
何人も、何百人も、特攻して死んでいくことで、権力を持つ人間に敗北を決意させる為だったのです
いくら死んだら敗北を認める事が出来るのか?
それを問う為に死んでいったのだと、その台詞で初めて腑に落ちました

そして戦後
マスコミが戦前では戦争に追い立てたように今度は空想的な平和主義で、防衛の手足を縛り付けているのです
それは、かえって日本を戦争に巻き込ませることです
同じことをマスコミは、またやろうとしているのです

だから事実を報道しないマスコミには存在意義はないのです
まして、マスコミ自身の勝手な思想信条で事実に角度をつけて報道し、世論をミスリードしようとする姿勢は、国民を戦争に追いやることと同じです
ましてや捏造してまでそれをやろうとするやり口は国民への裏切りです

そんなマスコミは21世紀にいまだに存在します
軍閥はマスコミに憑依して現代にまで生き残っているのです
軍閥化した無責任なマスコミこそ、日本をまた戦争に追いやるのです

彼らマスコミは、マスメディアによる言論という権力を持っているにも関わらず、政治家のように選挙で国民による審判をうけないのです
自由に言論という権力を自由に、そして恣意的に行使できる存在なのです
それこそ軍閥ではないでしょうか

本作はあくまで映画です
製作者の意図、政治的思想信条に左右された内容になって当然です
堀川弘通監督は、「世田谷・九条の会」呼びかけ人だそうです

それでも、このようなことを様々に考えさせてくれた映画でした
観る値打ちはあります

あき240