劇場公開日 1960年3月13日

「松本清張の短編を見事に映像化した傑作」黒い画集 あるサラリーマンの証言 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5松本清張の短編を見事に映像化した傑作

2022年9月1日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

WOWOWの放送を録画にて。

終業後、ビアホールでジョッキを2杯、パチンコを楽しんでから部下である女性社員の住まいで情事に耽り、帰宅すると子供らはまだテレビを見ていて、妻子とそれなりの会話を交わす。
なんと充実した時間の過ごし方だろうか。

主演の小林圭樹はサラリーマン喜劇でキャリアを積んでいて、とぼけたキャラクターが得意の俳優だ。
自分の社内不倫を隠すために、殺人の濡れ衣を着せられた男を見放し、結局は自分が別の殺人事件で濡れ衣を着させられることになる。運命の皮肉に翻弄される中年男をシリアスに演じて、いくつかの主演男優賞を得ている。

主人公の供述の矛盾を突く刑事役の西村晃が、また良い。「また映画ですか。あなたの話にはよく映画が出てきますなぁ〜」

松本清張の小説は短編が映画や単発テレビドラマに向いている。シチュエーションと人間心理の組み合わせでハプニングを起こし、結局主人公は自滅するのだが、松本清張のウィットに富んだアイデアによって展開は先が読めない。
橋本忍が脚色した本作の主人公は、若い女を囲っているアパートの近くで偶然すれ違った顔見知りに挨拶をしてしまい、不倫が明るみに出るのではないかと疑心暗鬼に駆られる気の小さい男だ。この性格設定が明確なので、追い詰められる主人公の心理が分かりやすい。
また、高度成長期真っ只中の大手企業サラリーマンの生活と、対比的にノルマに追われて追い詰められた外交員の姿を見せて、当時の社会的明暗が逆転する皮肉にもなっている。

kazz