劇場公開日 1954年8月31日

「一人の男が線路上でふらふらと列車に飛び込んでいくシーンから始まる」黒い潮 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0一人の男が線路上でふらふらと列車に飛び込んでいくシーンから始まる

2020年6月12日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

 目撃者は年寄りの男(後に精神病だとして証人に採用されず)。鉄道員の交代要員が「マグロがあがった」と聞いて嫌そうな顔をする・・・マグロとは鉄道職員の隠語で轢死体のことを言う。早速新聞記者も動くが、死体が上がったという一報で、一昨日に国鉄で3万人の首を切ったため行方不明になっていた総裁。誰が殺したんだと記者たちは興味津々。

 デスクとなった速水記者(山村)は他殺とも自殺ともとらない、真実のみを追及するという方針を貫き、部長もそれに従い、毎朝新聞は他社とは一線を画し、自殺説中心の論調となった。しかし、他社は強く他殺説を採り、発行部数を増やすのだ・・・他殺説とは、首切りとなった組合の誰かが行った犯行であり、組合や共産党の活動を弾圧するという政府の思うつぼとなるモノ。警察の捜査も二本立てで続いていた。

 物語では、速水は16年前に妻が他の男と心中を図ったという過去があり、そのため真実を歪める世の中の論調が許せなかった。途中、三鷹事件(なぜかこれだけ実名)が発生し、秋山事件のネタさえも古くなった。そして終盤、警察も自殺説を発表するという段階に進み、毎朝の記者たちは喜んだのだが、翌日その発表が中止となる・・・馴染みの刑事に詰め寄る速水。しかし、「知らん、知らん。刑事に何がわかるってんだ」の一点張り。上からの圧力があったことを暗に想像させる。そして発表中止により毎朝の敗北と感じた上層部は速水の博多転勤を決めた。折しも、尊敬する学者(東野)の娘(津島)との縁談もあったのだが、彼には16年前に失った妻のことが忘れられず、単身転勤へと決意を固めたのだった・・・

kossy