きつね(1983)
劇場公開日:1983年6月4日
解説
不治の病に冒された14歳の少女と、35歳の低温科学者との恋を北海道の根釧原野を舞台に描く。脚本は「震える舌」の井手雅人、監督は新人の仲倉重郎、撮影は「凶弾」の坂本典隆がそれぞれ担当。
1983年製作/104分/日本
配給:松竹
劇場公開日:1983年6月4日
ストーリー
初夏の根釧原野。霧に閉ざされた森の中で、この道東の研究所に派遣されていた大学の低温科学者緒方は、14歳の少女万耶と出会った。万耶は父親がなく、体が弱いため、独り保養に来ているのだった。夏休みになり、学生たちが帰省したので、緒方は万耶のいるホテルに移った。ふたりで楽しい時を過ごす緒方と万耶。だが、夏休みも終りに近づいたある日、緒方の愛人友紀がたずねてきた。友紀は人妻で、彼女とのスキャンダルが緒方の昇進を妨げている。万耶の胸に生まれて初めて嫉妬の炎が燃え、少女から恋する女に変わっていく。化粧をして研究所に緒方をたずねた万耶は厳しく彼の不純を責めた。そして、友紀と別れた緒方がもどってきた宿に万耶の姿はなかった。秋、万耶は肝臓の手術をし、病院に入院していた。彼女は知り合いになった配達員の青年にカルテを調べさせ、自分の運命をさとる。病名、エキノコックス症。野性のきつねが媒体となって、人間に寄生する幼虫が体内に致命的な巣をつくってしまうのだ。初雪の降った朝、万耶と親しかった老人が息を引きとり、万耶ははじめて死の恐怖におそわれる。研究所に冬ごもりしている緒方は、根釧原野のブリザードの吹き荒れている日、雪嵐の中から現れた万耶を見つけ驚愕する。万耶は自分の病気のことは隠し、緒方に「私のために、流氷に乗ってくるきつねを撃って」と頼む。緒方は凍てつく流氷原へと向かった。流氷の上にえさをまき、きつねが現われるのを待つ緒方。彼は「きつねなんか来なくてもいい、久しぶりに万耶のおかげでこんな真剣な気持ちになれた」と言う。しかし、とうとうきつねは現われ緒方に射とめられた。その尻を優しく撫でる万耶。その夜、万耶は緒方に抱かれる。次の日、万耶は家に帰ると言いだし、二人は「春休みにまた会おう」と駅で別れた。そして、後日緒方は万耶の死を知らされ愕然とする。万耶の告別式で緒方は万耶の友人から自分宛の手紙をもらう。それには、「万耶は緒方さんに会えて幸福だった」とあった。