「噛めば噛む程に美味しいスルメのような映画です」男はつらいよ 寅次郎ハイビスカスの花 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0噛めば噛む程に美味しいスルメのような映画です

2020年5月17日
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鑑賞方法:DVD/BD

大好きな作品です
何度も観ているといろいろと気付きがありました

寅さんの生年は1940年とも、1936年とも、1931年の昭和9年とか諸説色々です

リリーさんの生年はどうにも分かりません
仮に浅丘ルリ子と同い年とすると、1940年昭和15年です

仮に寅さんを1931年生まれとするとリリーさんとの年表はそれぞれこうなります

1973年 忘れな草の出逢い 42歳、33歳
1975年 相合い傘の別れ 44歳、35歳
1980年 本作、ハイビスカスの花の再会 49歳、40歳
1995年 紅の花での同棲 64歳、55歳

晩婚化の進んだ21世紀の現代なら本作のカップルが結婚したって、さほど珍しくも無いですね

リリーさんが相合い傘で再登場したのは何故でしょか?

多分忘れな草では、彼女を描ききれて無かったからだと思います

では、何故また本作ハイビスカスの花でリリーさんを取り上げたのでしょうか?

それはシリーズも10年を過ぎて、山田監督が句読点を一旦打とうとしたのかも知れないと思うようになりました

彼女だけが寅さんと釣り合うマドンナであって寅次郎と結婚してしまえばシリーズ終了となってしまう

本作は、それが本当にそうなのか、間際まで近づいてみて、それを実際に確認してみようという映画なのだったと思います

結果は観てのとおりです

リリー、俺と所帯もつか?
俺、今なんか言ったかな?

もしここでリリーが
ありがとう寅さん!と抱きついて
さくらが、おめでとう、お兄ちゃん!と祝福すればこの瞬間、シリーズは本作をもって終了になってしまうことがやはりハッキリしました

これではもう次にリリーさんを出したときは、シリーズ最終回になってしまうんだ
そういう予告になってしまいました

これが本作の目的だったのだと思います
つまりシリーズのこの先も長い継続させる為にも
その終わり方を予め決めておく
それが本作の目的だったのです

赤いハイビスカスの花言葉は「常に新しい美」「勇敢」だそうです

幾つになっても恋愛は美しい
寅さんがもうすこし勇敢にリリーさんの愛情に立ち向かっていたら・・・という意味だったと思います

リリーさんだってそうです
二人とも傷つくことが怖いのです
勇敢でなかったのです

タイトルバックの滝は北軽井沢の白糸の滝です

村の子供達はみな真夏の服装
寅さんが暑そうで滝の冷たい水に足を漬けてます
季節は夏です

そしてラストシーンのバス停
そこに草津ナウリゾートホテルのバスが差し掛かります

リリーさんとバンドメンバーを軽井沢駅で拾って草津に向かうようです

寅さん暑そうで団扇を持ってますから、このシーンも真夏です

ここでも気付きがありました

白糸の滝は軽井沢から草津にいくバスの通り道に有ります

つまりタイトルバックとラストシーンは実はひと続きでつながっていたのです

沖縄行きの航空券には6月18日と発券日のスタンプが押されてました
また終盤の御前様のお経はお盆の法事ですから、沖縄のお話は全部その間のことです

つまりタイトルバックとラストシーンは、その物語が終わったお盆の頃の事です

寅さんとリリーさん、柴又駅で別れて半月ほどでバッタリ再会していたという時系列のようです

監督はやっぱり運命的な二人なのだということを始めと終わりに説明していたのです

そしてその近くの村を舞台としている映画が、木下惠介監督のカルメン故郷に帰るです

リリーが柴又という故郷に帰るという内容にかけていたのだと思います

もう一つ気付きがありました

では舞台はなぜ沖縄だったのでしょうか?

まだ寅さんが行っていない県はまだまだ沢山ありましたから意図があったはずです

それは本作でリリーさんを取り上げると決まったら、前作からどうつなげるかを考え抜いた結果だと思います

前作の公開年は1975年
その年は何があったのか?

沖縄海洋博開催
山陽新幹線の博多開業
ベトナム戦争のサイゴン陥落による終結

こんな年だったのです
だから沖縄が舞台に選ばれたのだと思います

海洋博のあとの水族館の近くにリリーさんと一緒に住むのはこうした理由だと思います

沖縄に着いてバスが米軍基地の前に差し掛かると戦闘機や輸送機の爆音が響きます
リリーさんが高志と仕事を探すのは、キャンプハンセンの門前飲み屋街です
もちろん沖縄の基地問題のことです

そして寅さんはあまりの炎天にこんなことを口走ってしまいます
あーまいった、この沖縄ってのはとっても人間の住めるとこじゃねえよなあ
これは本土の人間の無意識な沖縄への差別意識を取り上げていると思います

ただの娯楽作品だけに終わらせていなかったのです

あき240