劇場公開日 1947年9月27日

「新しい日本を、旧華族と平民が力を合わせて建設していくのだという希望を描いています」安城家の舞踏会 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0新しい日本を、旧華族と平民が力を合わせて建設していくのだという希望を描いています

2019年10月14日
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鑑賞方法:DVD/BD

1947年9月公開
その年5月3日は新憲法の施行でした
新憲法は第9条の戦争放棄がまず思い浮かばれますが、第14条で法の下での平等、貴族の廃止が規定されています
ですから本作は華族廃止後わずか4ヶ月の実にタイムリーな時事ネタ映画だったわけです

伯爵邸宅はおそらく鎌倉の海岸べり
その邸宅内でのシーンはまるで洋画で見た世界です
内容もまたルキノ・ヴィスコンティの名作山猫を思わせます
舞踏会シーンがハイライトなのも同じです
しかし本作のほうが21年も先に撮られいます

ライオン奥様劇場で真珠夫人が登場してきそうです、殺人事件が起こって金田一耕助が頭を掻きながら登場しそうです
というか、それら日本の上流階級の邸宅内部のイメージは本作が源流になっているのではないでしょうか

原節子、森雅之と大物俳優が出演します
原節子は伯爵家令嬢役がピッタリはまっています
全力で走ったりダンスをするシーンは他の映画では観たことの無いものです
森雅之も女を騙して食い物にする役を演じると天下一品です
しかしご安心下さい
原節子とは兄妹の設定なので、彼女は無事です、森雅之の毒牙にはかかりません
もっとも結構綺麗な女優さんが演じる女性二人を彼が騙して食い物にして二人から首を絞められたり殴られたりしますのはお約束です

物語は華族も残しても良かったのでは思えるセンチメンタルなトーンで進行しますが、新日本の建設の出発でありこれで良いのだという結論に導かれて終わります
原節子役の姉は戦後羽振りの良くなった元運転手をそのプライドから拒絶しています
元運転手も実質的な革命に少し生意気な態度で登場します
酒を暴飲して放言して邸宅を飛び出す彼は43万石のお殿様であった伯爵家伝来の甲冑を蹴倒して出て行きます
平民が華族を打ち倒した実質的な革命であったことを示すシーンでした

しかし、彼は次第に金では尊敬を得られない、結局華族には心の内では見下されることは変わらないと知ります
長女も華族のプライドよりも真の愛情の尊さを知ります
彼の羽振りがよいもの非合法な闇取引のものでなく汗みず懸命に働いて築いたものと知ります
それも自分を迎えたい一心で
こうして二人は人間としての心情を裸で見せたとき、一組の男女になっていくのだというシーンとなります

伯爵も日陰の存在であった妾の女性を正式に結婚を宣言してみせます
長男も騙して別れた筈の小間使いの女性を抱き寄せます
原節子が演じる次女も、御屋敷の家令や小間使い達も伯爵家の華やかな日々を懐かしみながらそれぞれの身を振る為の準備をみせます

それは新しい日本を、旧華族と平民が力を合わせて建設していくのだという希望を象徴しています

新しい日本の未来は伯爵邸のすぐ前に打ち寄せる太平洋の様に前途は洋々と開けているのです

次女が伯爵の挙動に不審を抱いて彼を探すシーンでのカメラワークなど演出も優れており、気高いテーマといい優れた傑作だと思います

あき240