劇場公開日 1998年12月19日

「生と死が交錯する“あの瞬間”で何度も、何度も泣いています」あ、春 岡田寛司(映画.com編集部)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0生と死が交錯する“あの瞬間”で何度も、何度も泣いています

2020年8月24日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

泣ける

笑える

楽しい

「相米慎二監督といえば?」という問いかけに、第1候補、第2候補としては出てこない作品でしょうか。と言いつつも、私的リピート率1位の作品。大好きです。「音信不通だった父が帰ってくる」という普遍的な題材だからこそ、いつ見ても飽きないという点もあるんですが、生と死が交錯する“あの瞬間”を見たいがために、度々再生ボタンを押してしまうんですよね。そして、大体泣いてます。展開は読めているのに……。

山崎努演じる“父”のハチャメチャっぷりが、とても微笑ましいんです。帰省(=寄生)された人々からしたら、たまったもんじゃないないんでしょうけど(笑)。最高に身勝手なのに、どうにもこうにも憎み切れない。そんなはた迷惑な存在が、沈みかかった船(=家)の帆をピンっと張っていくのです。

脇を固める女優陣の芝居がとにかく素晴らしい。斉藤由貴の「脆さ。感情を溜め込んだ末の爆発力」、紫煙をまとう富司純子の「したたかさ」――藤村志保、三林京子を含め、男たちを見つめる女性たちの視線が良いんです。特に斉藤由貴演じる“妻”の人柄を表す描写が秀逸。「寝ている夫の腹を噛む」「絶滅寸前の動物たちを気に掛ける」。何気ないシーンなんですが、見るたびにくぎ付けになってしまいます。

余談:三浦友和&余貴美子が夫婦役で出演しているんですが、2人のやさぐれ感が半端なくてですね……もしも「帰省先にいたら嫌な人」ランキングなんてものがあったら、かなり上位に食い込むと思います。

岡田寛司(映画.com編集部)