今宵、フィッツジェラルド劇場で 特集: ロバート・アルトマンの横顔

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今宵、フィッツジェラルド劇場で

劇場公開日 2007年3月3日
2007年3月13日更新

「M★A★S★H マッシュ」「ロング・グッドバイ」「ナッシュビル」から「ショート・カッツ」「ゴスフォード・パーク」、そして遺作の「今宵、フィッツジェラルド劇場で」まで、一貫して世界の混沌とユニークな人物像を描き、多くの傑作を生み出してきた名匠ロバート・アルトマンが昨年11月、81歳の生涯を閉じた。世界中の映画ファンを魅了したアルトマンの演出について映画評論家・翻訳家の芝山幹郎氏に寄稿してもらった。(文:芝山幹郎

ロバート・アルトマンの横顔
~彼の交響曲では数多い音符がそれぞれに粒立っている

ロバート・アルトマン監督1925年2月20日~2006年11月20日 ロバート・アルトマン監督

1925年2月20日~2006年11月20日

ロバート・アルトマンは複雑な監督といわれつづけてきた。軍隊を皮肉り(「M★A★S★H マッシュ」)、ハリウッドをえぐり(「ザ・プレイヤー」)、ファッション業界を嗤い(「プレタポルテ」)……鋭い刃で一刀両断するというよりも、愚かさや狡さも脂身のように描き、あとでずきりと疼く傷を肉に残していく人だった。

そんなことができたのは、彼が役者の仕事を重視したからだ。もちろん、アルトマンの視線は深くて鋭い。脚本には撚りがかけられているし、演出も十分に考え抜かれている。が、役者を尊重し、なおかつ彼らをそそのかせば、映画の肉づきはもっと豊かになる。よく練られた企みと反射神経の鋭い即興のブレンドは、楽しい化学反応をもたらす。

ためしに「ナッシュビル」を思い出してみよう。75年に公開されたこの映画は、一言では定義しがたい。形だけを見れば、群像劇とも、ミュージカルとも、ドキュドラマとも呼ぶことができる。政治やアメリカ社会を諷刺する要素もたっぷり盛り込まれている。

にもかかわらず、映画を見終えて舌に残るのは、約25人の登場人物が紡いだ「それぞれの短篇小説」のような味わいだ。しかもそれらの短篇は、幾重にも絡み合う。傷を抱えた人々が求め合っては傷を深め合い、どうにか癒されながら、また歩みはじめる物語。

「群像劇」という言葉をあまり安易に使いたくないのは、彼らが集団や群像として描かれているだけではなく、輪郭の鮮明な個人としても描かれていることを見落としたくないからだ。若く無名だったころのモーツァルトは、「音符の数が多すぎる」と守旧派の非難を受けた。だがいまや、そんなことをいう人はいない。「多すぎる音符」のそれぞれが、みごとに粒立っていることが明らかになったからだ。

画像2

アルトマンの方法も、そこに通じるところがある。長まわしのキャメラや重層的なサウンドトラックを駆使して、ポリフォニックな世界を作り上げようとしたのは事実だが、それは彼の眼に世界がそう映ったからだ。われわれも驚いた。なるほど、世界とは混沌の別名ではないか。

ただ彼は、混沌を混沌として提示するだけでは満足できなかった。唐突に聞こえるかもしれないが、レンブラントの描いた群像図を思い出してみたい。絵のなかの人々は、それぞれに顔がはっきりしている。なおかつ彼らは、「音楽的」ともいうべき不思議な流れのなかに置かれているように見える。

だからこそ、アルトマンは役者を尊重した。「ショート・カッツ」でも「ゴスフォード・パーク」でも、新作「今宵、フィッツジェラルド劇場で」でも、われわれ観客は、描かれた世界の全体像と、世界を構成する人々の「ひとりひとりの物語」をともに目撃している。メリル・ストリープが歌い、リリー・トムリンが間を置き、ウディ・ハレルソンが笑い、L・Q・ジョーンズが黙りこくる。アルトマンは、彼らの喜びや悲しみを引き出した。楽しみや寂しさをそそのかし、映画のなかで手綱を解き放った。そこには、芸に対する信頼がある。演出の力だけでは無理だ、役者の力がなければ世界の呼吸や脈拍は描けない、という確信がある。この作法を、彼は最後まで手放さなかった。

「今宵、フィッツジェラルド劇場へ」撮影現場にてキャストたちに囲まれる監督(中央) 「今宵、フィッツジェラルド劇場へ」撮影現場にて

キャストたちに囲まれる監督(中央)

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