「図書カードの裏の方。」Love Letter Mr.C.B.2さんの映画レビュー(感想・評価)
図書カードの裏の方。
4月21日(月)
TOHOシネマズ日比谷で公開30周年記念「Love Letter」4Kリマスター版を(初見)。
岩井俊二監督の長編デビュー作。
監督デビュー作(もしくは最初に撮った青春もの)というのは、恩地日出夫の「あこがれ」(1966)、出目昌伸の「年ごろ」(1968)、森谷司郎の「育ちざかり」(1967)など(例えが古くてすいません。70ジジイなもんで)みずみずしい感性で良作が多い(個人的感想です)。
岩井俊二は、前述の堀川弘通や黒澤明の助監督から監督になった人達とは時代が違うから大学時代から自主製作映画撮っていた訳だが、それでも中山美穂を主演に迎えて自主製作やTVドラマとは違って、初の劇場用の長編映画を撮るのは嬉しかったに違いない。冒頭のカメラの長回しなどその気持ちが溢れている気がする。
雪山で死んだ婚約者の藤井樹を忘れられない渡辺博子(中山美穂)は三回忌の日に樹の母から小樽時代の中学卒業アルバムを見せられる。名簿にあった藤井樹の小樽の住所を控えて、その住所に手紙を出す。「お元気ですか?私は元気です。」
なんと返って来るはずのない返事が藤井樹から届く。
返事をくれたのは同姓同名の中学の同級生藤井樹♀(中山美穂・二役)からだった。中学時代の藤井樹♂の事を知りたい博子は樹♀と文通を始める。もっと樹♂の事を教えて。
樹♀は、昔の事を思い出して博子に伝える。
中学時代の藤井樹♀(酒井美紀)は、藤井樹♂(柏原崇)と同姓同名で嫌な思いをした事。テストの答案用紙を間違えられた事(樹♂の答案用紙の裏には宮崎美子のイラストが書かれている)。
同じ図書委員だったのに非協力的だった事。樹♂は本ばかり読んでいた事。
誰も読まないような本を借りて図書カードに藤井樹の名前を残すのが好きだった事。
脚を骨折したのに競技会で走ろうとした事。
思い出せば思い出すほど、自分では意識していなかった樹♂の思いに気付く。そして樹♀自身の思いにも。
最後に会った日、引越すと言わずに借りた本を返しておいてと頼みに家まで来た樹♂(借りた本が「失われし時を求めて」)。
翌日、登校して樹♂が引越した事を知る。
何故か怒りがこみ上げてくる樹♀。
博子は、今の彼氏の秋葉(豊川悦司)と小樽に来て樹の家を訪ねるが会えない。しかし、街角で博子は樹♀とすれ違う。自分とそっくりな樹♀に「藤井さん?」博子は声をかけるが、樹は気づかない。人混みに紛れてしまう。
樹♀の家に中学の後輩達が訪ねて来る。以前中学校に行った時、本を整理する時に藤井樹図書カードを見つけるのがブームだと聞いた。あまりに数が多いから。
彼女達が持って来た本は「失われた時を求めて」だった。図書カードには藤井樹の名前が。これは私が代わりに返した本だ。
「裏です」後輩に言われて図書カードの裏側を見る樹。
そこには樹の似顔絵のイラストが書かれていた。これは渡辺博子には言えないわ。
これは30年前だからこそ成立する話である。手紙による文通も今ならメールやLINEで済んでしまうし、ポラロイドを送って写真を撮ってもらう事も無いだろう。
中山美穂が性格の違う二人を演じるのは大変だったと思う。監督も藤井樹のパートを殆ど撮り終えてから渡辺博子のパートを撮ったそうだ。
中山美穂が輝いている。冒頭に書いた青春ものも主人公は輝いていた。そしてその輝きが不滅の魅力を醸し出しているのである。合掌🙏。
おまけ
4月22日に行なわれた中山美穂のお別れの会で岩井俊二監督がお別れの言葉を述べた。
その中で中山美穂について語ったのは、
最初に出会ったのはフジテレビの歌番組の収録中に映画の出演依頼に行った時で「映画はあんまり好きじゃない、やりたくない、苦手なんです」と言われた事。
藤井樹の役をほとんど撮り終えてから渡辺博子のパートに入る時にどう演じたらいいかわからないと心配そうに相談に来た事。
試写室で出来上がった映像を見た時に泣き崩れ、床に伏せたまま立ち上がれなかった事。
「Love Letter」の後、お互いに次の作品をまた一緒に作る気満々だったのに、その脚本が準備出来なかったのは自分の不徳の致すところで、本当に申し訳ないと思っているとの事だった。
もし、脚本が出来ていたら、もう一つ別の中山美穂の代表作があったのかも知れない。
おまけ2
中学時代の樹♂・柏原崇は、今は内田有紀のマネージャー兼パートナーだそうだ。
青春18×2 でこの映画を知りました。
図書カードは粋でしたね。
青春18×2は5/3で公開して1年になるんですね。
レビュー書いてみます。
ありがとうございます😊
岩井監督によるお別れの言葉のエピソードが実に中山美穂さんの普段表向きには見せないありのままの素の性格的反応や表情があったんだなと感じられあらためて残念な気持ちと安らかにおやすみくださいという追悼の意が強く込み上げてきました。普段からテレビは見慣れないものなのでMr.C.B.2さんのレビューでお別れの言葉の内容を思わず知り感動した次第です。


