劇場公開日 1996年3月23日

「闇の中の光」ユリシーズの瞳 アントニオ・バンデラスさんの映画レビュー(感想・評価)

3.73
40%
30%
30%
0%
0%
採点

採点する

採点するにはログインが必要です。

新規会員登録

5.0闇の中の光

2021年1月10日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

興奮

知的

萌える

戦火の混沌と狂乱の中での芸術の役割。闇の中の光。闇に葬り去られる光。闇の中の闇。またとんでもない大傑作に出会ってしまった。生涯ベスト級。真冬のバルカン半島各地の驚くべきローケーションを背景に、卓越されたカメラアングルと、神がかり的なカメラワーク、その"まなざし"が、戦火の混沌と狂乱を掻き分けて時代に葬り去られつつある光を取り戻しに向かうひとりの男を追い続ける。自然と人間が一体化するような圧倒的に美しい長回しの連続。いや美しいという表現すらも陳腐に聞こえてしまうような、言葉では言い表すことの出来ない、神聖ささえ感じる映像の数々。衝撃的。映像の極限。究極とはこういうことをいうのだろう。もはや仮に映像だけを見ていたとしても心が高らかと浮き立つほどの芸術力。そして画面越しに伝わってくる極寒。映像を見ているだけで超過酷なロケを容易に想像することが出来る。画面の先まで凍えてくるような臨場感。制作陣の苦労と努力が伺える。気が遠くなるような過酷な過程の繰り返しの結晶。これぞ芸術というような感じ。主演のハーヴェイ・カイテルはつくづく凄い俳優だと思う。スコセッシ監督との出会いに始まり、「地獄の黙示録」の一件でハリウッドから一時干されたにも関わらず、あらゆる種類の傑作達に足跡を残した。傑作という点においては「レザボア・ドックス」や「スモーク」とは同じでも温度の違いが面白いほどに凄い。彼の多方面での活躍は近代の映画史にかなり貢献しているような気がする。そしてスウェーデンの名優エルランド・ヨセフソンの気がついたら引き込まれているような円熟味に満ちた演技。どの作品で出会っても本当に素晴らしい存在感。このヨセフソンが演じたイヴォ・レヴィを当初演じるはずだったのが「ドル箱三部作」でお馴染みのジャン・マリア・ヴォロンテ。しかし、本作の撮影中に倒れ亡き人となってしまった。冒頭の追悼が悲しさに満ちている。しかし、そのような悲しさの中でこそようやく芸術というものの本領が発揮されると改めて思わされた。やはりネガティブの中でこその芸術。そして映画。多くの悲しみに光を与えてきた過去の傑作達。そんな傑作達やそれらを産んだ芸術家達へのリスペクトにも溢れた、映画愛そして芸術愛溢れる大傑作だった。現代も新型コロナのパンデミックという混乱の真っ只中で戦時中と同じく「余裕がなく芸術どころではない」と言われそうな疲弊した時代だけれども、そんな暗い時代だからこそ芸術が真の役割を果たす時なのかもしれない。闇に葬り去られ、闇の中を真っ暗闇にしてはならないと改めて感じさせられた。

コメントする (コメント数 0 件)
共感した! (共感した人 0 件)
バンデラス
「ユリシーズの瞳」のレビューを書く 「ユリシーズの瞳」のレビュー一覧へ(全3件)
「ユリシーズの瞳」の作品トップへ