劇場公開日 2021年11月5日

「夢の終着点」パリ、テキサス 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5夢の終着点

2022年4月2日
iPhoneアプリから投稿

今まさに眼前に広がる映像が自身の映画経験そのものに影響を及ぼすことって実はあんまりなくて、100本のうち60本くらいは可もなく不可もない平坦さをじっと耐え抜いている。後になってそれらの蓄積を眺めているうちに傾向やら感慨やらが見えてくることもあるけど、見ている最中に芯から打ちのめされるような作品は両手で数えられるくらいしかない。本作はその稀有な一本。

トラヴィスの大切な写真に映ったテキサス州パリスの砂漠、それは「限界」のメタファーだ。一度は散ってしまった家族という夢をボロボロのフォードでいくらかき集めても、彼らが最後に辿り着くのはこの不毛なる砂漠なのだ。

それでもトラヴィスは息子との生活の先に家族の再生を思い描かずにはいられない。4年前に撮ったホームビデオを観るシーンや、車道越しに息子と歩調を合わせながら帰宅するシーンが印象的だった。そういえば是枝裕和『そして父になる』にも同じようなシーンがあった。

ガラス越しに妻と4年ぶりの再会を果たすシーンは本当にすごかった。ガラスというフィルターを介しているからこそ互いに本心を吐露できた二人。一方でガラスという壁があるがゆえ永遠に交わり合うことができない二人。あまりにも悲痛な二律背反。壁を壊したところでどうにもならないことは二人とも痛いくらいよく理解している。

息子を妻に託し、ひとり夕闇に消えていくトラヴィス。彼の頬を涙が静かに伝い落ちていく。そこに西部劇的なダンディズムの気配はなく、美しい記憶に押し潰された男の、海よりも深い悲しみだけがある。

因果