劇場公開日 1974年

「不思議な調和」パピヨン(1973) とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5不思議な調和

2019年12月6日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

興奮

脱獄不可能な牢からの脱獄映画と聞く。
かってに、逃げようとする囚人と、逃がすまいとする監視との攻防が描かれているのかと思った…違った。

確かに、脱獄不可能な設定。
でも、よく考えると穴もある。あれ?パピヨンたちを連れてきた船は行き来ができるの?
唐突に現れる援助者、あれ?誰?なぜ?

双方の知力合戦というわけではない。
けれども、この作品の魅力は別のところにある。

裏切り、信頼。
執念、諦観、適応。
そして、人生を生きるとはと考えさせられてしまう。

いかつい設定のわりに、ギャグか?というようなほんわかとした場面ーワニや蝶の捕獲。
昔、ジャングル大帝等で憧れたジャングルをほうふつとするシーン。
緊迫した場面なのに、どこか広々とした探検しているみたいなわくわく感。
囚人服も、おしゃれでポップ。おじさんたちが着て、重労働しているというギャップのセンスが何とも言えない。
そんな場面が、暑苦しいほど生のエネルギーがほとばしるパピヨンと、どこかのほほんとしているルイの、本来相容れぬ要素なはずなのに、微妙な間と雰囲気を作り出し、目が離せなくなる。そこに後半は、むき出しの刃物みたいな雰囲気をちらつかせながら、人のよう男が加わり、さらに一筋縄ではいかない展開が待っていて…。
映画の中盤には、これでもかというほどの悲惨な牢獄場面が出てくるかと思えば、
話がどこに行くのかと心配してしまうようなパラダイス?というような生活も見せ、そこで落ち着くかと思えば、さらなる展開があり…。
盛りだくさん…。
その間に挟み込まれる夢?幻覚?砂漠の裁判。三途の川のようなシーン。その衣装・メイクのセンス等に脱帽。
見直すたびに、いろいろな場面に唸ってしまう。

そして、誰もが絶賛する主演お二人の演技。
 独房に入れられたパピヨンの細かい変化。独房の壁が取り払われ、ドアが開いた時のシーン。『ショーシャンクの空に』の独房から出されるシーンはこのシーンのオマージュか?
 ドガが「初めて守ってもらった」と言う場面や、「(ばらされても)仕方ない。食事が半分では死んでしまう(思い出し引用)」と言う場面の表情。それだけで、それまでドガがどんな人生を歩んできたかが見て取れる。そんな場面があるからこそ、ラストの場面が身に染みる。

これだけ詰め込むと、話が散漫になりそうなものなのに、見せ切ってしまう映画。
主筋だけならもっと短くできるだろうが、何度も見ていると他のシーンも味わいたくなる。
微妙なバランスで成り立っている不思議な映画。

PS.かなり刺激的な場面もあるのでご注意を。

とみいじょん