東京戰争戦後秘話のレビュー・感想・評価
全1件を表示
~闘っているのか、闘っていないのか~
大島渚は日本を代表する映画監督である。題材は学生運動を取り上げているが、監督自身も学生運動に参加しており、手がけた作品からもリベラル的な思想が見受けられる物が多い。この作品は学生運動の最後期に公開され、時代に取り残された若者が映し出されている。
短絡的なセリフのぶつけ合いやジャンプカットの手法はフランスのヌーベルバーグの影響を否めない。劇中では内ゲバや核マルなど物騒な言葉を哲学的な解釈を交えて語り合う。しかし、主人公のモトキは、学生運動より同じサークルのヤスコに首っ丈。ストーリーのほとんどがモトキとヤスコの恋物語で仲間も不憫に思ってしまうぐらいくどい駆け引きが続く。モトキの頭の中には大儀だとか大局などはもうない。ヤスコの元カレのエンドウの幻影を消すことで精いっぱいだった。
しかし、最後まで見ると学生運動というテーマが随所で彷彿とする。同じ学生から見ても、学生らしい勉強をすることもなく、働くそぶりも見せず、集う場所があり、当てもなく街を歩く時間もあり、カメラもあるなんて、なんと恵まれた環境だとうらやましくも思う。一体彼らが批判するブルジョアとはどの程度の地位を指すのだろうか。また、同じサークルの仲間たちも運動に参加している立場と言うより、距離をおいた傍観者のような存在に見える。そんな彼らが掴み所のない政治的理念を語り合う姿を見ると苛立ちさえ覚えた。最後、モトキはエンドウを追うようにビルから飛び降りる。これは闘うのを辞めた学生たちの虚無感を表わしているのではないのだろうか。
大島渚にはリベラル的な思想があったが、決して学生運動の味方とは言い切っていない意地悪さがこの作品からにじみ出てきた。いつのまにか目的を忘れ燃え尽きた若者たちを監督は冷めた目で見ていたのかもしれない。「怒れる監督」と呼ばれていたが心の内は案外違ったのかもしれない。
全1件を表示