劇場公開日 2022年9月16日

「2000以降を予見するかのよう」ディーバ よしたださんの映画レビュー(感想・評価)

3.52000以降を予見するかのよう

2016年5月23日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

笑える

楽しい

知的

 80年代。フランス映画。中高生だった自分にとっては全てが大人の世界だった。恋人との感情世界のみにフォーカスするような一人称と二人称のみの映画ばかり(そんな作品の全てが嫌いというわけではない。)で、フランス映画に辟易し始めていたころにこの作品を観たのが20年前。鮮烈な印象が残っていた。特に、リシャール・ボーランジェの独特の存在感が大きく、以降、彼が登場するたびに心の中で「待ってました!」の掛け声が出るほど好きになった。
 今回改めて観ると、そこには現代のグローバリゼーションと文化記号や情報のコピーの氾濫という問題をすでに先取りしていたかのような、物語の設定に驚かされる。情報通信技術の格段の進歩はあるものの、現在の世界を席巻している問題と同じものがここに描かれている。ちょうど年代的にCDが普及し始めたころでもあり、クラシック音楽は演奏を生で聴くものから、リビングや店頭で手軽に消費される音楽へと変わりつつあった。このことは功罪両面あるが、レコーディングを頑なに拒み続け、リサイタルにこだわるオペラ歌手をこの映画は描いている。このディーヴァの熱烈なファンである主人公は彼女の歌声を盗み録りして、バイクに乗りながら聞くことが楽しみなのだ。
 この二人の関係はまさに、芸術とそれを愛し消費していく大衆との関係に重ねられる。自分のことを愛してやまない少年は、自分の芸術だけでなく、その褐色の肌ですらそのコピーを求めて黒人の娼婦を買うのだ。
 芸術というものがどれだけ大衆に愛されようとも、芸術家の孤独は深まるばかりだということではないだろうか。
 いずれにしても、フランス映画は難解だとか言って敬遠している向きにはぜひおすすめしたい一本である。

佐分 利信