劇場公開日 2007年11月23日

「「テロには屈しない」という言葉は、一国の長が言うのと、最前線にいる民間人が言うのとでは重さに雲泥の差がある」マイティ・ハート 愛と絆 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0「テロには屈しない」という言葉は、一国の長が言うのと、最前線にいる民間人が言うのとでは重さに雲泥の差がある

2020年8月11日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 ウォールストリート・ジャーナルの記者ダニエル・パール氏がパキスタンでの取材中に行方不明になった事件を、妻であるマリアンヌが描いたノンフィクションの映画化。相変わらずフィルムをぶつ切り状態にして緊迫感を出し、ドキュメンタリー風でもあるマイケル・ウィンターボトム監督作品です。

 主演女優のアンジェリーナ・ジョリーは本人になりきった演技でかなりのハマリ役。ブラピとともにセレブでありながらセレブらしくない社会活動をしている彼女は、もしかするとラジー女優候補を脱却するかのように社会派映画に進出するのかもしれません。

 映画は夫ダニエルが行方不明となり、テロリストとの関連やダニエルの足取りを追い、犯行声明が読み上げられるといった展開の緊張の連続。パウエル元国務長官のパキスタン政府への呼びかけという実写映像があったりして、生々しさはサスペンス映画以上でもありました。妻マリアンヌの心理描写が中心かと思いきや、パキスタン捜査陣の国のメンツをかけた戦いも印象に残る内容。もちろん心に響くのはアンジーの演技でしたけど・・・。その他、アスラ(アーチー・パンジャビ)が人物相関図をホワイトボードに書き込む姿も印象的。

 インド人は皆モサドのスパイ、アメリカ人は皆CIAと疑心暗鬼になってる人が多いパキスタンの地。もちろんテロリストに賛同する一般人もいたりして、捜査は難航し、心臓が止まってしまうほどの偽情報も流れたりする。そして犯行声明ではグアンタナモ基地で不当勾留されている人を解放しろといった内容・・・これは同監督の『グアンタナモ、僕たちが見た真実』をセットで鑑賞したほうがいいのかもしれない。ほぼ対を成す映画のような気がする。

 「アメリカ人記者はテロしか取材しない」というパキスタン人の言葉も印象に残りましたが、映画の最後にはインタビューを終えたマリアンヌたちがTV局を去ろうとするときに報道陣に取り囲まれる。純粋なジャーナリストを目指したパール夫妻が、下世話な報道記者たちと対比される部分でもあり、ここでもマスコミの在り方が問われている。多くの社会派映画を撮っている割に政治色を感じられない監督の起用も純粋な心に因るものかもしれない・・・

【2007年12月映画館にて】

kossy