劇場公開日 1959年

「暑苦しい密室での白熱する議論。目が離せないスリリングな展開。」十二人の怒れる男 koukiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0暑苦しい密室での白熱する議論。目が離せないスリリングな展開。

Kさん
2022年3月18日
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和田誠さんと三谷幸喜さんが対談した「それはまた別の話」という本にこの映画が載っており、何度も観たはずなのにまた観たくなり視聴。

個人的に大好きなこの映画。黒澤監督の「七人の侍」で好きな侍ができるのと同じく、ヘンリー・フォンダ以外の陪審員にも注目するようになっていた(ちなみに、三谷さんは気が弱いながらも次第に自分の考えを持つようになっていく2番陪審員(ジョン・フィードラー)がお気に入りらしい)。

父親殺しの容疑で逮捕された少年の裁判が終わり、12人の陪審員は評決を出すべく、この世から隔離されたかのような蒸し暑い部屋に入っていく。

タイトルバック。錆びた扇風機の上に据えられたカメラ(丁度部屋の全景を見渡せる位置である)は流れるように動いて皆を長回しで映し、我々はこの小さな世界へと引き込まれてゆく。

彼らは挙手制で採決をとり、12人のうち11人が当然の如く有罪に手を挙げる。しかし、ただ1人8番陪審員(ヘンリー・フォンダ)だけが無罪を主張し、この手に汗握る"話し合いのみ"で構成されたクライムドラマが始まる・・・。

カメラワークは文字通り完璧で、実は12人全員が画面に収まるショットは数える程しかなく(その全てが計算し尽くされた見事な構図である)、ほとんどが

・発言している人物のクローズアップ
・机を挟んだ数人のショット
・机を離れた場所でのショット

で成り立っているのだ。
意識しなければそれに気づかせないプロの技が全編通して光っている。
ご存知の通り本編95分間のうち93分がこの密室での議論に費やされているため、最後の裁判所から出ていく場面は身体的、心理的な開放感が見事に描写されており、爽快だ。

陪審員たちは名前さえ明かされないのにも関わらず、キャラクター性が確立しており、議論が進むにつれて彼らの性格、考え方が徐々に露わになってゆく。
偏見の塊のような10番陪審員(エド・べグリー)、
常に冷静で論理的な4番陪審員(E・G・マーシャル)、
被告人を絶縁した息子と重ね、有罪一点張りの頑固な3番陪審員(リー・J・コッブ)
などといった極めて個性的な男たちを相手に8番陪審員はただ1人立ち向かう。

また、効果音が全くと言っていいほど使用されていないのも見どころの1つだ。本編中音楽が流れてくるシーンは(確か)たったの4回で、特に印象的な場面ばかりである。すなわち、

・8番陪審員が自分を除く11人で無記名投票してほしいと持ちかけるシーン
・休憩時間中、8番がトイレで6番陪審員(エドワード・ビンズ)に説得された後のクローズアップ
・10番陪審員が皆からそっぽを向かれるシーン
・ラスト、全員が部屋から退出するシーン

で、そのうち3回は短いながらもオープニング、エンディングで流れてくる静かなテーマ曲と同じもので、感情が揺さぶられる。

同調圧力に負けず、間違っていたとしても自分の考えを持つ事の大切さを、どれだけの人がこの映画から学んだことだろう。
当たり前を疑い、批判を恐れず発言する8番陪審員は偉大なヒーローであり、この映画を見る度に勇気づけられる。

K