劇場公開日 2022年8月19日

  • 予告編を見る

「男女の秘密の愛をロマンティックに描いた傑作」花様年華 和田隆さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5男女の秘密の愛をロマンティックに描いた傑作

2022年8月26日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

トニー・レオンがくゆらせるタバコの煙、タイトなチャイナドレスに包まれたマギー・チャンの美しい肢体、そして梅林茂の「夢二のテーマ」が流れる、それだけで永遠にループして見ていられる夢のような映画。ウォン・カーウァイ監督と撮影監督クリストファー・ドイルの名コンビが生み出す映像は、それまでの香港映画、いやアジア映画のイメージを一新した。そのスタイリッシュな映像と世界観は、20年以上が経ってもなお新鮮であり、何度見ても新たな発見と感動がある。

本作は1962年の香港を舞台に、それぞれ家庭を持つ男女の秘密の愛を描いた恋愛ドラマだ。トニー演じるチャウは地元新聞社の編集者。マギー演じるチャンは商社で秘書として働いている。たまたま同じ日に同じアパートに引っ越してきて隣人になるが、やがて互いの伴侶が不倫関係にあることに気づき、傷ついた者同士の2人は一緒に時間を過ごすようになり、距離を縮めていく。

ドロドロの不倫劇が描かれそうな設定だが、カーウァイ監督は極力台詞を排し、映像と音楽の力によって、次第に惹かれ合っていく2人の関係、心情を表現する。屋台に夕飯を買いに来たチャンと、食べに来たチャウが階段ですれ違うというシーンだけで、2人の距離感を気だるくエロティックに描き出す。2人が近づいた時、その世界はスローモーションになり、時間の流れが遅くなる中、交錯しそうな互いの視線、クローズアップされた手元や足元だけで想像が掻き立てられる。そして、ドイルが原色を際立たせつつも、光と影、陰影を意識した画面の中で、チャンが纏うチャイナドレスの色や柄、スーツ姿のチャウの佇まいと彼がくゆらせるタバコの煙がそれぞれの感情を表す。

2人が密会するホテルの廊下は、まるでデビッド・リンチ監督の「ツイン・ピークス」に出てくる森のカーテンの向こう側の世界ようであり、2人だけの世界では、時間の流れが異なっているように見える。そして、ナット・キング・コールによる「キサス・キサス・キサス」などのラテン・ポップスや、60年代の香港を代表する歌手レベッカ・パン(本作にも出演している)が歌うインドネシアの名曲、さらには京劇の曲が流れるなど、無国籍なようでありながらメランコリックで、ロマンティックな不思議な世界観が醸し出される。

コメントする
和田隆