劇場公開日 2006年6月3日

「風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残をいかにとやせん」花よりもなほ kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0風さそふ 花よりもなほ 我はまた 春の名残をいかにとやせん

2018年11月12日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

 カンヌで男優賞を獲得させた是枝監督の次回作が時代劇!?ということで、期待と不安でいっぱいでした。基本的には庶民派のコメディ時代劇ですが、江戸が舞台であっても貧乏長屋が中心で、とても「花のお江戸」という言葉が似つかわしくないほどの汚いセット。長屋の傾きも『チャーリーとチョコレート工場』ほどでなないにしろ、今にも倒れてしまいそうな佇まい。父の仇を討つのが目的でその長屋に住みついた青木宗左衛門(岡田准一)が中心人物だ。剣術も喧嘩もまったく弱い主人公という設定に関しては、故松田優作主演の『ひとごろし』という映画でも臆病な侍が主人公でしたが、あくまでも仇討ちを避けたいという点ではこの『花よりもなほ』のほうが平和的でほのぼのしています。

 長屋の住民にはほのかに恋心をよせる未亡人おさえ(宮沢りえ)や遊び人貞四郎(古田新太)、切腹マニアの浪人(香川照之)等々。そして重要な伏線となるのは、吉良上野介を討つという宿命を背負った浅野側の家臣たちも隠れていて、宗左の仇討ちと赤穂の仇討ちが見事にからまっていたことです。

 9.11テロ以降には復讐の連鎖をテーマにした映画が数多く作られてきていますが、この映画ではそれを喜劇風に表現し、復讐しない道を考えるといった平和への願いも感じ取れます。天下泰平の世の中、仇討ちをするというヒーロー像を求める風潮があっても「逃げることも一つの手段」だと捉えることができるのかもしれません。

 数多く映画化された赤穂浪士の話は大好きなのですが、それを「引退した老人の寝込みを襲う」といった風刺があっても全く嫌味に聞こえない。それよりも寺坂吉右衛門が討ち入りに参加せず切腹しないで済んだという史実へのこだわりも感じられ、彼の親子愛にほろりとしてしまいました。そして、将軍綱吉の生類憐れみの令の時代。韓国映画で犬を食べるシーンでは嫌悪感いっぱいでしたが、この映画においてお犬様を食べてしまっても爽快感が味わえる・・・でもないか・・・

 木村祐一の「クソからもちが出来る」というお笑い伏線も用意されていましたが、クソのキレが悪い平泉成のように、ちょっとだけコメディのキレの悪さも感じてしまいました・・・だけど、社会派時代劇としてはなかなかのものでした。

kossy