劇場公開日 2006年7月22日

「学生時代の楽しさの空気感」ハチミツとクローバー 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5学生時代の楽しさの空気感

2020年7月11日
PCから投稿

とても印象に残っている。
今見ると実力ある俳優達の共演だった。もう定評が確立しているが──というより、当時既に演技派と見なされていた人たちだが、多数にも関わらず、それぞれの個性を適確に配役し、引き出し、引き立てていた。群像にかかわらず、埋没したキャラクターがいない。

原作は未読だが、平凡な男が、芸術を目指し、すぐれた才能と失恋に遭って、自分を知る──という普遍の青春物語で、好感をもった。

学生時代がまぶしいほど楽しく描かれている。花本先生宅に研究生の面々が集まって親睦会をやる雰囲気がすごく和める。きっと大勢のひとたちが青春時代のどこかを思い出したと思う。

いつも「おまえらのことはぜんぶわかっているぞ」みたいな余裕の笑みを浮かべている花本先生が、堺雅人に合致していた。
それを言うなら、いつも不慣れな新人AD風態度の櫻井翔も適任だったし、バイト先の経営者にストーカー的恋心を抱く根暗な真山も加瀬亮を置いて他に居なかったであろうし、はぐみも蒼井優でなければ単なる知恵遅れにしか見えなかったであろうし、強引で自信満々の森田も伊勢谷友介にふさわしかったし、真山に一途に寄せる山田も関めぐみの勝気と純情がはまっていたし、真山に惚れられた西田尚美も魅力的な年上の女だったし、ちょっとだけ出る宮大工の中村獅童も親心ある頭領に見えた。
配役で映画があらかた成功していた。

絵がうまい──と言ったばあい、それは絵が写実的で、対象そっくりに描かれていることを指している。だから抽象画は、うまいか、うまくないのか解らない。それでもそれを優れていると感じるのは、主観に基づく。三段論法でいくと、ゆえに芸術とは主観に基づくものだ──となる。
だが、なんとなく絵心は解るものだ。あわせて才能があるか、ないのかも、なんとなく解る。造詣や練熟があるなら、明瞭に解る。だから芸術をやろうとした初端──学生の段階で、じぶんには才能があるのかないのか、概ね解る。
だがはぐみの絵はわたしには解らない。造詣があっても明瞭に解る絵だとは思わない。それでも絵を続けるならあとはお金やスポンサーとの天秤になる。

芸術にはそのジレンマがある。青春のときめきを交えながらも、その芸術に対する溜め息がこの映画には描かれていると思う。「いいな、わかものは」頭領の台詞は物語を集約していたと思う。優れたSoul-searching映画であり、マンガの実写化の成功例でもあると思うが、なぜか監督はこれ一作しか撮っていない。

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津次郎