劇場公開日 2002年9月7日

ザ・ロイヤル・テネンバウムズ : インタビュー

2002年9月6日更新

これが長編第3作のウェス・アンダーソン監督はご覧の通りキュートな風貌の32歳。映画の一家はけっこう本人の家庭と共通してたりして?! もちろん、3人兄弟の真ん中である監督本人は、グウィネスが演じた天才脚本家にあたるわけだ?!(聞き手:町山智浩)

ウェス・アンダーソン監督 インタビュー
「これは僕の心の中のニューヨークなんだ」

「僕はずっとこの街に憧れてた」

窓からニューヨークの街並みを眺めてウェス・アンダーソンは言った。

「僕はテキサスで生まれ育ったけど、学校の図書館に『ニューヨーカー』誌のバックナンバーがあったんだ。そこでサリンジャーたちが書いたニューヨークを舞台にした小説を読んで、ニューヨークを心に描いてた。『ザ・ロイヤル・テネンバウムズ』はニューヨークでロケしたけど、現実のニューヨークじゃなくて、僕の心の中のニューヨークなんだ」

憂鬱を抱えたテネンバウム兄弟の物語は、サリンジャーの「フラニーとズーニー」を始めとする「グラース家」物語に似ている。

「サリンジャーには何度も何度も何度も読んだから、影響から脱けきれないよ」

前作「天才マックスの世界」はコメディ版「ライ麦畑でつかまえて」だった。主人公のマックスは、新聞部、仏語研、弁論部、クンフー部など19ものクラブをかけもちし、そのうえ年上の未亡人に憧れてあの手この手でアタックする熱血少年。青春するのに忙しくて勉強しているヒマなどなく、成績不良で学校を叩き出されてしまう。

「マックスは僕の分身なんだ」

はにかんで下を向くアンダーソンは今年で32歳だが、そのままマックスを演じてもおかしくないほど、少年の面影を残している。今回の「テネンバウムズ」も自伝的なのか?

「最初は自分の話にしようと思ったんだ。うちも両親が離婚して、母はアンジェリカ・ヒューストンと同じで人類学者なんだよ。でも、オーウェン・ウィルソンとシナリオを練っているうちにメチャクチャになっちゃった」

「テネンバウムズ」は奇妙なエピソードが羅列されるだけで脈絡がない映画だ。

「脚本のストラクチャーを気にしないで、思い付いたことをどんどん突っ込んでいったからね。たとえばマーゴ・テネンバウム(グウィネス・パルトロウ)というのは僕らの友達の名前だし、長男(ベン・スティラー)の手の甲に子供の頃撃たれたBB弾が残ってるというエピソードはウィルソンのお兄さんの実話で、実際に彼の手を撮影したんだ」

いちばん奇妙なのは撮影だ。どのシーンも無表情の俳優が真正面を見ているのを画面の真中に捉えただけの左右対象で奥行きも動きもない構図ばかりだ。

「子供の描いた絵みたいな、絵本みたいな画面にしたかったんだ」

衣装も非現実的だ。テネンバウム兄弟はいつも同じ服しか着ない。長男はアディダスの赤いジャージ、長女はラコステのワンピース、次男はフィラのテニスウェア。

「あれは70年代を表現してるんだ。次男はビヨン・ボルグ、長女はニコのイメージだ。このシナリオを書いている間、僕はずっとニコのCDばかり聴いていた」

「テネンバウムズ」には70年代の名曲が散りばめられているが、その使い方は最高に上手い。特にラモーンズの「ジュディはパンク」が流れるシーンは爆笑だ。

「ラモーンズは僕にとってのニューヨークのイメージだ。ポール・サイモンの『僕とフリオと校庭で』もね。大好きなジョン・レノンも一曲だけ使った。あれは、彼が住んでいたダコタ・アパートで録音された歌なんだ」

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