「ポストコロナウイルス禍の湾岸署の物語は一体何がテーマになるのだろう? とてもそれを観たい」踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ポストコロナウイルス禍の湾岸署の物語は一体何がテーマになるのだろう? とてもそれを観たい

2020年7月25日
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鑑賞方法:VOD

邦画の歴代興行収入第5位
アニメ映画を除くと第1位
なぜ本作がそれ程の大ヒットになったのだろう?

確かに面白い
スケールも大きい
元々テレビドラマだからテレビとのメディアミックスでの莫大な宣伝効果もあっただろう
しかしそれだけで、これほどの空前のヒットにはならないと思う
何か不思議なマジックが本作に掛かっているに違いない

元のテレビドラマは1997年の1月から3月のワンクールだけの作品だ
それがこれほどに愛されるコンテンツに成長したのはなにか訳があるに違いない

主人公の青島は演じる織田裕二と同じとすれば1967年生まれ
つまりバブル世代
バブルの最高潮の時に就職している
今から考えられないほどの好条件で、大量に簡単に採用された世代だ

なのに彼は転職して警察官になっている
おそらくバブル崩壊による就職の公務員志向の世相を反映させたものだ

テレビシリーズが始まった1997年は既にバブルは崩壊して奈落の底に落ち込むのを何とか踏ん張っている時期だった

場所は湾岸お台場
埋め立て地の何もないところで博覧会を計画するとかで早期の活性化が予定されていたのが、奇しくも「青島」都知事が博覧会を白紙にしてしまったのだ
そこにバブルも崩壊してしまい、開発は遅れに遅れてていた

空き地ばかりの湾岸は、まさにバブル崩壊した荒涼たる日本の姿そのものだったのだ
そこから新しい21世紀の日本を作り上げなければならないのに、遅々として進んでいないのだ

つまりこのシリーズのテーマは、バブル崩壊の中で悪戦苦闘するバブル世代の物語だったのだ
だから現場と会議の比較の描写に拘るのだ

事件は会議室で起こっているんじゃない!
現場で起こっているんだ!

本シリーズの有名なフレーズだ
会議室は会社の幹部が詰めているところ
そこは即ちリストラが決定されるところだ
本作でもリストラは重要なモチーフとなっている
しかし、日々の営業数値は現場でしか稼げないのだ

会議室から、キャリアの人々から、高尚な理論に基づいた方針に沿って微に入り細に入り指示が次々に飛んでくる
会議室の連中はITテクノロジーで何もかもわかったつもりでいるのだ
しかし現実はどうか?
現場が泥だらけになって働いて、どこまでも落ち込んでいくのを何とか食い止めているのだ

俯瞰すれば、そういう物語だったと思う

では本作はどうなのか?
本作は2003年7月の公開
基本的なフレームは同じだが時代に合わせてあるのだ

前年にはメガバンクの再編成や巨額の公的資金の注入があった
バブル崩壊もようやく最悪期を脱しつつあったのだ
景気にも明るさがでてきたころだったのだ

ITバブルの萌芽はこの頃だ
4月には六本木ヒルズも開業した

お台場にも本作のように商業施設も次々に出来てきて、少しずつ賑やかにもなってきた頃だったのだ
本作にも登場するお台場の大江戸温泉もこの年の3月に出来たばかりだったのだ

つまりバブル崩壊が、遂に終わった
ようやく新しい日本が焼け野原になった後の空き地に新しいビルとして立ち始めたのだ
本作はその物語だ

湾岸の開発がようや進み始めた
できつつある街並みは、従来の東京の街並みとは違う21世紀的な近代的なガラスと金属の超高層ビルの街なのだ

まだまだ空き地はある
しかし21世紀は幕を開けたばかりだ
老害化した団塊世代がはびこり、たたきあげのの名人芸を持つ職人はその技術の伝承をする相手もなく現場から去りつつある
しかし、散々苦労してきて経験を積んだバブル世代の先輩達や、彼らを目をかけて引き上げてくれているその上の尊敬する年長者がいるのだ

就職氷河期世代は、1997年頃から2002年頃にかけて極端な就職難になってできた世代だ
多くが非正規に流れていった
しかし本作をみればどうだ

バブル崩壊は終わった!
これからは君達の時代だ
先輩達は君達がここに来るのを待っている!
君達の活躍する舞台はここだ!

こういうメッセージがキラキラと輝いている
明日への夢がある
今は非正規であっても近い将来、自分にも未来は開けるのだ
そんな高揚とした気分になれるのだ

それが本作が空前の大ヒットに押し上げたのだと思う

そして17年の歳月が過ぎた
現実はどうなったのか答えは出ている

確かにその方向に日本は進みつつあった
しかしそれは幻だった
4年後リーマンショックが襲う
瞬間冷凍されたかのように日本経済は凍ってしまったのだ
そして10年、ようやくそこからも回復しつつあった
なのに、またコロナウイルス禍だ

青島はもう53歳だ
本作劇中の室井さんより年長者になっている
室井さんはもうすぐ定年だろう
スリーアミーゴスはもう数年前に定年していない

青島は和久さんの「正しいことをやりたければ偉くなれ」の言葉を守って昇進試験も頑張っているだろうが良くて署長が精一杯だろう
所轄の課長止まりかも知れない
真下はとんでもなく出世しているかも知れない
それこそ話題の内閣府とかに出向しているかも知れない

では、本作で未来の明るい夢を見た氷河期世代は、いまどのように暮らしているのだろう
彼らは本作の青島の年齢ぐらいだ

もちろん氷河期世代の刑事だっているだろう

一般人はそれとは全く無関係に、仕事場とアパートの往復だけの単調な毎日を過ごす氷河期世代が大多数だろう
未だに非正規のままでいる人も多いだろう
結婚も出来ないままかも知れない

あの時、本作を観た夢はどこにいったのだろう?

ポストコロナウイルス禍の湾岸署の物語は一体何がテーマになるのだろう?
とてもそれを観たい
待ち遠しい

あき240